「昔、コンビニで強盗事件が起こり、警察犬と周辺を捜索しました。足跡追及で近くの河川敷にたどりついたのですが、結局見つけられなかったんです。後日犯人が捕まり、その供述で木の上に隠れていたことが判明しました。そして『警察犬が真下をぐるぐる回っていた』と言っていたんです。私は下ばかりを見ていたので気付くことができず、高いところも注意を向けなければと思いました」
この経験を活かし、生垣など少し高い位置のにおいを嗅がせる訓練も行うようになった。
また、足跡追及は芝生や土の上だけでなく、アスファルトでも行う。
「人が往来している場所、特にアスファルトでは、時間の経過とともににおいは薄くなります。かすかな点が残っているようなレベルです。その点と点のにおいや、浮遊するにおいをいかにキャッチするか。そのためにいろいろなパターンで訓練をしています」
爪楊枝やプラスチックの切れ端などの小さなパーツも使う。これは点と点のにおいを見つける練習にもなっているという。
新しい訓練にチャレンジするときは失敗も多いはずだ。だがここでも犬に自信をつけさせている。
「たとえば地面のにおいを嗅ぐことに慣れていると、高い場所にあるにおいに気づくことができません。でも誘導しながら発見させて褒めると、次から上にも気を配るようになるんです。見つけられなくても、担当者が誘導し、発見させる状況を作る。成功体験を与え、褒めることで、どんどん自信がつくのです。『ああ、こういうところにも正解があるんだ』ということを一つひとつ焼きつけていくように教えています」
「正解」のバリエーションを示していくこと。それによって、犬は捜索の「引き出し」を増やし、現場で活かせるようになるのだ。
そして訓練の切り上げどきも大切だ。「必ず訓練は成功させて『もっとやりたい!』というときに終わらせます」と赤坂さん。やり切って疲れさせてしまうと、作業が嫌になるというのだ。成功して良い気持ちで終わらせることが犬のモチベーションにも関わるという。
まだやらねばならない訓練はある
神奈川県警察において、2024年の直轄警察犬の出動は682件あった。そのうち行方不明者の捜索は406件あり、件数は年々増加している。県警では嘱託警察犬も登録され、民間の協力も得て暮らしを守っている。
赤坂さんは今年還暦を迎えるが「まだまだやらなければいけない訓練方法がある」と語る。嗅覚で人を助け、治安を守る。人と犬のバディだからできる捜査を、警察犬と警察犬係員に伝えていく。
写真=山元茂樹/文藝春秋



