警察犬は使命感で動いているのではない。担当警察官に褒められるために、ご褒美のボール遊びのために作業している。叱る訓練はいかにダメなのか。赤坂さんは犬の表情を見て思い知った。以来、指導法を180度変え、「褒める」指導に切り替えた。
「警察犬は賢いので、叱ってやらせると、においを嗅いだふりや、やっているふりをするんですよ。叱って覚えさせるのではなく、大好きな担当者に褒められたい、ボールで一緒に遊びたいと思わせることが大切なのです」
正解したらよく褒める。間違えたらやり直す。警察犬と担当者に信頼関係があれば、犬の取り組み方が変わり、進んで活動するようになる。
赤坂さんは、関根さんの訓練を見ながら「よーく褒めて」とアドバイスを送る。褒めて犬との信頼関係を築いていくことが、行方不明者の早期発見や事件の解決に繋がるのだ。
正解にたどりつきにくい現場に“正解”をつくる
警察犬が「現場」で力を発揮するためには「訓練と現場の区別をつけさせないことが大事」と赤坂さんはいう。
「敷地内で行う訓練には“正解”がありますが、行方不明者の捜索や犯人追跡などを行う現場では、正解をすぐに見つけられるわけではありません。訓練では正解を見つければすぐに褒めてもらえるけれど、現場に行くと発見に至らずになかなか褒められない。そう思わせてしまうと、現場でやらなくなってしまいます。ですから、現場に出るときも訓練を取り入れ、褒めるシチュエーションを増やすようにしています」
たとえば現場に向かう途中や捜索前に物品を隠して軽い訓練をしたり、臭気選別のようににおいを選ばせたりする。捜索時にも訓練のときと同じように声をかけながら行う。
訓練は成功で終わらせる
警察犬の訓練は、服従訓練や足跡追及訓練、臭気選別などを基本に、藪や急斜面での捜索など県内の地形やあらゆる現場を想定して練られている。ここにもまた赤坂さんの苦い経験が生かされている。

