25年前の山本夏彦さんの驚くべき言葉

 ここで少し脇道に逸れることをお許しください。

 いまから25年前、すなわち時代が21世紀に入ろうとする2000年春に、黒柳徹子さんと、山本夏彦さんという当代の人気コラムニストとの対談を私が編集長をする雑誌『婦人公論』(2000年5月22日号)で行なったことがあります。山本さんはその直前、『文藝春秋』本誌(2000年3月特別号)で作家の群ようこさんと、「それでも二十一世紀は来ない」という対談をしておられ、「私の目の黒いうちは(二十一世紀は)来ません」「いくら来たって来ないと言うんです」という持論を展開されていました。黒柳さんはそれをふまえて、こうお尋ねになりました。

 黒柳 生まれかわるというのは、どう思っていらっしゃいますか?

 山本 生まれかわりたくない。ぜひにとおっしゃるんなら、植物です(笑)。突っ立ってるの。人のいちばん悪いのは移動すること、むさぼること、蓄えること。動くのがいちばんいけない。あなたも「日本植物党」にお入んなさい。

 聞いていた私は、驚愕しました。二十一世紀は間もなく確実に来るわけだし、「いくら来たって来ない」とは!? さらに、生まれかわれるなら植物です!? えッ、えッー‼

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 黒柳さんも「動かずにずーっとただ立ってるなんて、私には無理だと思います」と応じます。

 ともかく、植物を自分の「いのち」につながる相手として考えたことなどありませんでした。まったくの想定外でした。

©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 なぜ、この話をいま突然思い出したかというと、ウツログサが植物の妖怪だからです。山本さんもお亡くなりになって久しいのですが、このウツログサの登場には、あの時の山本さんの口ぶりとどこか響き合うものが感じられます。

 二十一世紀になって、ほぼ四半世紀が経ちました。「人間、こんな邪悪な存在はありません」「いまは年貢の納めどきなんですよ」と言っていた山本さんの言葉を裏書きするように、地球規模の環境破壊、気候変動の勢いは止まりません。未曽有の災害に見舞われたり、新型コロナウイルスの世界規模での流行などが発生し、世界各地で繰り返される戦争・紛争は絶えません。

 二十世紀は続いていて、「動く、むさぼる、蓄える」人間がつくりだす文明の危機や自然の災厄は深刻さを増すばかりです。テクノロジーの発達は便利で快適な生活をもたらす一方で、私たちをよるべなき不安へと連れ出します。

 そんな時、ふと忍び寄ってきたのが本書をいろどるウツログサたちです。「生まれかわるなら植物です」と宣言していた山本さんの言葉がよみがえります。植物の妖怪みたいな不思議な存在が、ふかい太古の記憶の闇からこの現世に何かの因果で現れたように思えるのです。

後編に続く

祓い師笹目とウツログサ (文春文庫 ほ 27-1)

ほしお さなえ

文藝春秋

2024年6月5日 発売

次の記事に続く そこにある「異界」とともに生きる――ほしおさなえ著『おかえり草(そう)――祓い師笹目とウツログサ2』を読む【後編】