今の時代を色濃く映すリアルさを持ち合わせると同時に、ファンタジックで不思議な小説集『おかえり草 祓い師笹目とウツログサ2』が刊行された。ほしおさなえさんが描くこの物語は、ウツログサ・シリーズ2作目。多くの読者を惹きつけてやまない物語独特の魅力について、元「ほぼ日の學校」の學校長であり、『考える人』『婦人公論』『中央公論』の編集長だった河野通和さんが紹介する。
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舞台はレトロな古い団地
本との出会いには、不思議な縁を感じることがしばしばですが、ほしおさなえさんの『おかえり草――祓い師笹目とウツログサ2』も、そうした一冊の典型でした。たまたま手に取って一気に引き込まれ、気がつくとこうして作品の紹介をする運びになったのです。
文庫オリジナルの第2作。舞台は「ひかり台」という横浜のニュータウン、1960年代にできた初期の団地です。学校、スーパーマーケット、病院などは揃っていますが、いまどきの賑やかなショッピングセンターやシネコンつきの商業施設などはありません。ファミレスや外食向きの飲食店もあまりなく、全体に静かでひっそりしています。
丘陵地帯にあるので起伏に富んでいて、高台からは海が見えます。梅で有名な庭園があり、梅の季節には梅まつりというイベントが開催されて賑わいます。庭園の裏手には小山があり、のぼれば富士山がよく見えます。
この少しレトロな昭和の団地に、人知れず起きていた不思議な物語が綴られます。そして登場人物たちを「異界」へと導いているのが、ウツログサという植物の妖怪(みたいなもの)なのです。
ウツログサにはいろいろな種類があって、場所につくもの、人につくもの、ただふわふわと漂っているものなど、形態もさまざまで、「祓(はら)い師」というプロからすると、「どこにでもいるありふれたもの」だというのです。
祓い師とは、人についたウツログサのなかで繁殖して害をなすものを祓うのが生業(なりわい)で、数は多くないが、全国各地にいるそうです。それぞれに縄張りのようなものがあり、笹目はひかり台に住んで、このあたり一帯を取り仕切っています。

