今の時代を色濃く映すリアルさを持ち合わせると同時に、ファンタジックで不思議な小説集『おかえり草 祓い師笹目とウツログサ2』が刊行された。ほしおさなえさんが描くこの物語は、ウツログサ・シリーズ2作目。多くの読者を惹きつけてやまない物語独特の魅力について、元「ほぼ日の學校」の學校長であり、『考える人』『婦人公論』『中央公論』の編集長だった河野通和さんが前編に引き続き、紹介する。
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植物の妖怪“ウツログサ″に囚われた宿主たち
ウツログサの5篇の物語が収められています。
・「オカエリソウ」――「じいちゃんにあの光る草を見せよう」と、病気の祖父のために、塾の帰り道で見たウツログサを探す男の子。
・「サザナミモ」――東日本大震災で、福島の夫の実家が被災し、家は津波で流され、兄一家は亡くなり母親は行方不明。夫の父親がひとり残されます。郷里と東京を往復する夫は疲労の極みに達します。疲れて眠りこんだ夫の肩に、妻は海の匂いのする水滴を見つけます……。さざなみにも似た海藻みたいなサザナミモ。
・「シンキロウゴケ」――大叔母の遺体の手の甲に見えた「白い山なみ」が、気づくと自分の手の甲に引っ越してきて、もう30年近くになるという女性。いまではそのことにすっかり慣れ、愛着までも感じています。
・「マドロミソウ」――起きていられない。眠たくてたまらない。まどろみの世界に入り込むと、“思い出せない大事な何か”を探し出そうとしている俺が、決まって夢に現れる。
・「フタツカゲ」――生まれてからずっと私には二つの影がある。私の動きをなぞる影と、他人の目には見えないもう一つの影――。独立した生きもののように、私の動きとは無関係に、元気に活発に動きまわる。この二つの影を宿す女性の夫は、ある時、こんな述懐を洩らします。
「このあたりも丘陵地帯だから、むかしは動物がたくさん住んでいたんだろうな、タヌキとかキツネとかウサギとかね。/でもニュータウンを作ったとき、みんないなくなってしまったんだ。昭和はおかしな時代だったんだよな。人間の理屈で世界を変えていいとみんな思いこんでいた。/(戦争で焼け野原になって、なにかを取り戻そうとみんな必死だった。山を開き、道を作り、町を作り、人がどんどん増えていった。)/わたしたちの世代が日本の風景を変えてしまった。いや、日本だけじゃないし、昭和にもかぎらないか。人間は人間のことしか考えない。機械を作る仕事をしていたわたしも同罪なんだけどね。/それがすばらしいことだと思ってたんだ。傲慢なことだよ。人生が終わるころになって、ようやくそういうことがわかるようになった」
夫は、さらにこう呟きます。
「植物は強いよな。/まわりがどんな世界になっても増えようとする。アスファルトの小さな隙間にも、雨樋にたまった土にも根をおろす。人間だらけの世界でも、迷わず生きようとする。まあ、生き物はなんでもそういうものなのかもしれないけど」


