こうして浜野の収容所生活がはじまったのだが、いきなり10月2日に「報復のため」明日から食糧半減と聞かされ、実際に減食された。浜野の10月11日の日記によれば、収容所では誰もが食い意地が張っていたという。
食券を盗んだ人がボコボコに…食べ物を巡って殺伐
1日の幸福の大半が飯量の如何にかかっている現在、飯上げ〔引用者注:軍隊用語で配給される食事を受け取りに行くこと〕行列の選択は重大かつ真剣な問題である。そこで次のような風景が現出することになる。
一応幕舎ごとに2列に並んで出発はするが、いよいよ左か右かに分かれねばならぬ地点まで来ると、まず小手をかざして馬鑵(ばかん)の方を偵察する。飯の盛り手には、性格的に大胆なものもいれば、小心なものもいるからだ。
例えば、馬鑵内の飯をシャモジで搔きまわしてばかりいるのは公平ではあるが、概して量は少ない。一発勝負式に思い切りのよいのは、少ない時もある代わり、多い時はベラ棒に多いといった塩梅である。
それから、こんどはすでに飯上げを終わって帰って来るものの飯盒の内部を仔細に点検する。以上の諸点を総合勘案しておいてから、悲壮な決意をもってルビコン河を渡る。つまり、左右いずれかの列を選ぶわけだ。
馬鑵の傍には食券の受取りがいるが、この男の役目は、時々食券の枚数を読み上げて飯盛りの注意を喚起することにある。事実、その途端に飯量が増えたり減ったりするから警戒を要する(現にこの時点で、急に行列を変更する厚かましいのもいるのだ)。
次に、飯の受取り方だが、これにも技巧がいる。盛り手がシャモジで飯を掬い上げるのに呼吸を合わせて、サッとフライパンのような食器を差し出すと、偶にはシャモジからこぼれ落ちるのを拾うことができるし、また盛り手も景気よくシャモジを食器に押しつけるから、飯量も概して多くなる。また中には、神頼み派もあって、馬鑵の前に立つとき、呼吸を止め、チョット目をつぶると、必ず多いと主張する者もある。
そのような状況だったため、とにかく食い物の恨みは恐ろしく、10月4日の日記によれば、一昨日の夕食後に特配されたオレンジジュースの食券3枚を盗んだ植竹技師が、また不正を働いたとかで、某中尉と小隊長にぼこぼこに殴られているのを浜野は目撃している。
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