沖縄県伊江島で敗戦を知らずに2年間、木の上に潜み続けた日本兵がいた──。実話に基づく井上ひさし原案の舞台を映画化した、『木の上の軍隊』で、堤真一とダブル主演を務めたのが山田裕貴だ。
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役作りのため「干し芋と納豆、豆腐だけの食事に」
子どものころ広島で平和教育を受けていたので、戦争の痛々しさや残酷さは人一倍理解しているつもりでした。でも正直なことを言うと、広島を離れて、さらに仕事が忙しくなるにつれ、どうしても記憶が薄れがちになっていったんです。そんな時、本作のオファーをいただきました。過去と向き合い、戦争のむごさ、ひどさを伝える役目をいただけたように思えて、すごくうれしかったです。
——飛行機を見たことも、戦闘経験もない沖縄出身の新兵・安慶名セイジュンを演じるため、どのような役作りを?
安慶名はよく「家に帰りたい」と口にします。だから、彼の気持ちを理解するために、撮影前は意識して美味しいものを食べ、めちゃくちゃ楽しく過ごしていました。そして撮影に入った途端に、干し芋と納豆、豆腐だけの食事に切り替えました。最初は狙い通り、つらくて早く家に帰りたい、と思っていましたが、撮影が進むにつれてだんだん感情が麻痺し、楽しかったこともよかったこともどうでもよくなってきて……。ただ生きていくことだけを考えるようになりました。これが戦争なんだな、と思いました。
——戦場で生き残ることへの理解ができた、と?
……いえ、そもそも戦争を体験された方の気持ちをわかろうなんておこがましいですし、すべてを理解できたはずはないと思っています。だから「お芝居をする」というよりは、もし自分がモデルとなった佐次田(秀順)さんや山口(静雄)さんと同じ状況に置かれたらどう生きるだろう、と考えながら取り組みました。
——どこまで実話であることを意識されましたか?
安慶名と堤さんが演じる上官・山下が潜む木の上は、まるでログハウスのようになっていきます。戦争中とはいえ、悲しみや痛みだけではない生活もあったはずなので、ちょっとした楽しみは大事に表現しました。また、前半で山下が食事を摂らずに死にかけるシーンがあるのですが、気づいたらアドリブで彼の背中をさすっていました。本来であれば新兵が上官の体に触れることなどできません。でも、優しい安慶名は、実際に目の前に死にそうな人がいたら助けるだろうと、自然に湧き出た感情に素直に従いました。



