2022年に公開され話題を呼んだ『距ててて』。ある一軒家で共同生活を送る2人の女性のもめ事や奇妙な闖入者とのやり取りに、軽やかでセンスのよいユーモアがあって、くすくす笑っているうちにとんでもないところに連れていかれてしまうという、とても面白い作品だった。そんな『距ててて』を生み出した俳優2人の創作ユニット「点と」の長編第2作が公開される。
新作『わたのはらぞこ』は長野県上田市でオールロケ。上田では2019年に1200万年以上前の地層からクジラの全身化石がみつかった。上田はかつて海の底だったのだ。そこから「海の底(わたのそこ)」「海の原(わたのはら)」という言葉をもとに『わたのはらぞこ』というタイトルは決まったという。早速「点と」の加藤紗希(監督・出演)、豊島晴香(脚本・出演)の2人にインタビューを行った。(全2回の1回目/2回目を読む)
『わたのはらぞこ』のお話
山々に囲まれた歴史ある街・上田を訪れたヨシノ(神田朱未)。東京での日々に苦しさを感じた彼女がこの街に来た目的は、ゲストハウスでありながら同時に劇場であり、カフェでもあるこの街の特別な拠点「犀の角」を訪ね“休憩”することであった。かつてこの上田には深い深い海があった。数年前、8メートルものクジラの化石が発見されたこの街を歩きながら、ヨシノは不思議な出来事に次々と巻き込まれていく。今が現実なのか、夢なのか、過去か未来かも曖昧な時間の中で、ヨシノの“休憩”は予想もしないものになっていって……。
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「それ、私たちでやってみてもいいですか?」
――『わたのはらぞこ』を拝見すると、上田という町との出会いがとても大きかったのかなと思いました。改めて、この映画を作るきっかけから伺えますか?
加藤紗希(以下、加藤) 前作『距ててて』を地方で上映していただく映画館を探していた時です。私たちは自主配給でやっていたので、縁があるところや行ってみたいところをテーマに探していました。そこで知ったのが、上田映劇さんです。「うえだ子どもシネマクラブ」という取り組みをされていて、映画館を学校に行きづらい子どもたちの居場所にしていると知って、「この映画館に行ってみたい」と思いご連絡しました。そうしたら、編成の方が『距ててて』を知ってくださっていて、「気になっていたので、ぜひやりましょう」と、すぐに上映を決めてくださいました。
それが2022年の7月で、『距ててて』のはじめての地方上映になりました。上映の際に、舞台挨拶とワークショップも一緒にやらせていただくことになり、近くにある劇場兼ゲストハウスの「犀の角」さんのご協力もいただいてそちらでのワークショップも実現しました。滞在中に上田で行われている様々な活動を知って、すごく素敵だなと思ったんです。
そして最終日に、上田の方とお蕎麦を一緒に食べている時に、「このあたりで数年前にクジラの化石が見つかったんですよ」という話を聞きました。その方が、「上田の町がそのクジラに守られているような気がする。これが映画になったらいいんじゃないかと思ってるんですよね」とポロッとお話しされて。それまでは、ここで作品を撮ろうとまでは考えていなかったんですけど、その話を聞いて「え、それ、私たちでやってみてもいいですか?」という話になったんです。
豊島晴香(以下、豊島) 「やってみてもいいですか」と言ったものの、その時に本当に実現するかどうかは、正直全然わからなかったんです。でも、反応するように言ってしまって(笑)。そこから具体的に動き出すまでには半年ぐらいかかりました。お互い別の仕事で忙しかったり、前作の地方上映でいっぱいいっぱいだったりして。でも、なんとなく「次に撮るなら上田なんじゃないか」という想いは、お互いの中で膨らんでいました。そして2023年の1月ごろに、「やるなら上田だよね」と改めて言葉で確認して、春から本格的に動き出したという感じですね。
加藤 初めは映画になるヒントが何かあるかなと思って、2人で町に通い出しました。私たちは「当て書き」という、俳優が元々決まっていてそこから物語を作る手法で映画を作ってきました。前作を終えて、次に何をするか、何か新しい挑戦がないと強い気持ちになれないなと考えていた時期でもあったんですけど、上田での様々な活動が、私たちの興味とすごく合致した感じがありました。結果的に上田の町に当て書きをすることが新しい挑戦になったわけです。

