――では今回の展示では、その恐怖心を体験できるということですね。

 観客の腕に注射の針を刺すわけにはいかないので(笑)、擬似的に恐怖心を味わってもらえるような仕掛けを作っています。たとえば先端恐怖症のコーナーでは、アクリル板越しに無数のコンパスの針と対面することになります。このように“そのもの”を展示している他に、恐怖症を抱いている人の心理を読み物として展示している箇所もあります。たとえば幸福を恐れるチェロフォビアという恐怖症があるのですが、これは物では表現しづらいので、架空のYouTubeチャンネルの概要欄を作成して、そこに幸せを恐怖する気持ちをテキストとして埋め込みました。

約50もの“恐怖症”を展示

© 2025「恐怖心展」実行委員会

――恐怖症をセレクトするのも大変そうですね。全部でいくつの恐怖症が展示されているんでしょうか。

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 展示されているのは約50です。とりあえずさらえるだけさらってみたら約600あって、そこから観客の共感をある程度得やすいものや展示映えするものという基準で絞っていきました。順路は恐怖の対象によって4つのパートに分かれています。1つ目が物に対する恐怖。先端恐怖症とかクモ恐怖症とか、はっきりした対象が存在するものですね。2つ目は社会的な恐怖。最近話題の電話恐怖症などがそれですね。電話が鳴ったからといって、身体に危害を加えられるわけではありません。これは人間の心理が複雑に進化してきたからこそ生まれる恐怖心だと思います。

© 2025「恐怖心展」実行委員会

 3つ目が空間への恐怖。高所恐怖症や海洋恐怖症など、場に対して生じる恐怖心です。そして4つ目が概念に対する恐怖。

――概念に対する恐怖、といいますと?

 たとえば取り残される恐怖です。英語ではフィア・オブ・ミッシング・アウトというのですが、たとえばみんなが見ている流行のアニメを見なければいけないと思い込むとか、自分だけが楽しいことを見逃してしまうんじゃないか、という不安ですね。これはある意味、SNSが発達した現代ならではの恐怖症かなと思います。このように順路を進むにつれて、徐々に具体的なものから概念へ、レンジが広がっていくという作りになっています。