「人間には2種類いると言われます。偉い人と偉くない人」「ではここで問題。偉くなるためにはどうすればいいか。今夜は偉くなるためのハックをご紹介します」
ユースケ・サンタマリアが、薄暗いスタジオでそう宣言し『SIX HACK』(テレビ東京)という謎の番組が始まった。「偉くなるためのハック」をテーマにした全6回の“ビジネス番組”だという。ユースケの背後には観覧客が不気味に並んでいる。怪しいセミナーのようで不穏だ。「有識者」としてSF作家・樋口恭介がキャスティングされ、構成にはダ・ヴィンチ・恐山というテレビ畑ではない人物がクレジットされている。演出は『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』『このテープもってないですか?』(ともにBSテレ東)などでSNSを騒然とさせた大森時生だ。
第1夜は「会議で勝って偉くなる」と題して昨今流行している「論破」などの議論を無効化するスキルなどを解説。具体的なことを何も言わず今後の対応を有耶無耶にすることを「Nagata Phrase」と呼んだり、「『検討』は何度でも使えるので好きなだけ重ねましょう」と言ってみたり、揶揄していることはわかるのだが、見方によっては真正面から捉えてしまう人も出てきてしまいそうな危うさも感じる。第2夜では「SNS」をテーマに炎上を起こすノウハウを伝授した。
そして「集合的無意識」と題された第3夜では、いよいよ怪しげな方向へと進んでいく。「人新世」「多元宇宙」「壁抜け」「真=神(シン)」、そして「No Eyes」といった難解な専門用語や造語が頻出。「No Eyesは自分たちの存在を隠していて新しい時代に向かっていく人間に擬態しながら、我々人類全体の生活基盤であったり持続可能性だったりに寄与するような耳に優しい言葉をささやきながら、その実、既得権益を貪っている」と樋口は解説する。そういえば「ハック」を解説する人物には、目がない。
エンディングにはこれまた不気味で何かを洗脳するような映像が流れるが、回を追うごとに長くなっている。たまたまチャンネルを合わせたらトラウマになりそう。大森は今年1月1日に放送された『あたらしいテレビ2023』(NHK)に出演した際、「感情を強く動かしたい」「嫌な気持ちにさせたい」と語っていたが、まさにそんな番組だ。極めつけは、番組の終盤に行われる「脳のブレーキを外す練習」。10秒のカウントダウンがされる中「音量を大きくしてください」と指示されるのだ。そしてそのまま音量を元に戻すように言われる。なんだか行動を“ハッキング”されたような嫌な気持ちになる。とにかく不可解。けれど目を離すことができない。そんなテレビではなかなか得ることがない種類の視聴体験を味わわせてくれる。
INFORMATION
『SIX HACK』
テレビ東京系 木 25:00~
https://www.tv-tokyo.co.jp/sixhack/