展示をきっかけに自分のアイデンティティを再発見
――医学監修として、精神科医の池内龍太郎さんも関わっておられますね。展示はすべて実在する恐怖症を扱っているんでしょうか。
基本的にはそうですが、一部まだ名前がついていない恐怖症も扱っています。たとえばドリームコアってありますよね。夢で訪れたことがあるような、不安や懐かしさを感じさせる景色のことで、ネット上では怖い画像として拡散されています。これに対する恐怖症にはまだ名前がつけられていないので、池内さんとご相談して呼び名を作りました。夢恐怖症を「オネイロフォビア」と呼ぶので、ドリームコアに対する恐怖症は「パラオネイロフォビア」、夢に似たものへの恐怖症としました。もちろんフィクションであることは明記してあります。
――どの展示コーナーを怖いと感じるかは、見る人によってまったく異なりそうですね。隣にいる人の反応を見るのも面白そうです。
恐怖心は文化に依存している部分も大きいんです。たとえばアメリカでメジャーなピエロ恐怖症は、日本人にはいまいちピンとこない。ピエロがお祭りなどにいる文化がないからです。逆に対人恐怖症という概念は日本発なんですよ。そしてそれ以上に個人に依存するところがある。だからみんなが同じ展示を見ても、反応する部分がまったく違うはずです。人が怖がっている姿を合法的に見られる空間ってそうないですし、できれば相手を変えて3回くらい見にきてほしいですね(笑)。
――「自分はこれが怖かったのか」と気づくことで、新しい自分を知る場所にもなりそうですね。
名前を与えられると、それまでぼんやりしていたものがクリアになりますからね。これは恐怖症とは違いますが、「共感性羞恥」という言葉がこれだけ一般化したのも、ネーミングがぴったりはまっていたからだと思う。「私は○○恐怖症です」と言葉にできるのは、自分のアイデンティティを再発見すること。それはある意味救いだし、解放だとも思っています。『恐怖心展』がそのきっかけになればいいとも思っています。実は閉所が怖かったという事実を深夜のエレベーターで知るよりも、『恐怖心展』の会場で知るほうがずっと安全ですから(笑)。

