スパイ行為の疑いで中国当局に拘束されていたアステラス製薬社員が7月16日、懲役3年6カ月の実刑判決を言い渡された。このニュースに震撼した日本企業の経営層、中国駐在員は少なくない。中国で実刑判決を受けたら一体どうなるのか?

 

台湾の活動家、李明哲氏(50)は、2017年春に「国家安全上の問題」という名目で中国で拘束され、同年11月に国家政権転覆の有罪判決を受けた。結果として、湖南省の刑務所で5年間の服役を余儀なくされた李氏だが、その生活はどのようなものだったのか。ジャーナリストの杉本りうこ氏が聞いた。

◆◆◆

「ゆがんだ魂は労働で矯正すべし」

 ――あなたが5年間服役した赤山監獄(湖南省)の生活は、どのようなものでしたか。

 李 赤山監獄は重刑犯を収容する刑務所で、大半が無期懲役の服役囚か死刑執行猶予中の人でした。犯罪でいうと麻薬関連が一番多かったようです。日本人が収監されるのは外国人専用の監獄なので、私の服役経験はアステラス製薬社員などにそっくり当てはまるわけではありません。それでも、中国の権威主義体制が人権や法の下の公正さをどう扱うのかは、日本にとっても参考になると思います。

両腕に「李明哲、あなたは私の誇り」と入れ墨をした妻の李凈瑜氏。法廷で有罪判決が出る時に、仮に言葉が交わせなくても一目でエールが届くようにと入れたものだ(李明哲氏提供)

 この赤山監獄での生活の中心は労働でした。中国共産党には労働改造といって、「ゆがんだ魂」は労働で矯正すべしという考え方があります。監獄法でも服役囚の労働について明確に規定されており、さらに労働時間については「国の労働基準を参照する」と定めています。具体的には1日8時間以内、週に6日を基本的な上限とすることになっています。

ADVERTISEMENT

 ところが私は服役当初、1日に14時間、週に7日働かされました。後になって改善されましたが、それでも朝6時から夕方6~7時まで働くことが日常的でした。休めるのは20分の昼食時間と、10分間の休憩時間が2回だけ。特に気温が高い時は昼食後に30分ほどの休憩がありましたが、これは夏の盛りに限った例外でした。

赤山監獄(湖南省監獄管理局のホームページより)

 ――毎日11~12時間の長時間労働だったと。どんな作業をしていたのですか。

 李 ミシンを使って、主に靴や手袋を縫製していました。監獄とは言うものの、要するに実態はアパレル工場なわけです。

 靴は人民解放軍向けでした。手袋については服役当時は知りませんでしたが、台湾に戻った後に米国の大手企業の手袋だったことを知りました。夫が赤山監獄で服役していた在米中国人女性が、米国からその手袋を持ってきてくれたのですが、それはまさしく私が作っていた手袋でした。山ほど作ったので、デザインやタグをしっかり覚えていたのです。