――なぜ米国企業の製品が中国の刑務所で生産されていたのでしょうか。

 李 米国企業の生産委託先の中国企業が、下請けとして赤山監獄を使っていたのです。監獄は企業と契約できませんから、実際には地方政府が作った関連企業を介して監獄が下請けを引き受ける仕組みです。というのも、中国の刑務所はごく一部を除いて地方政府が運営しており、財源はそれぞれの地方財政から支出されています。上海市や広東省のような財政力のあるところ以外は、服役囚をどんどん労働させ、その収益を刑務所の運営資源にしているのが実態です。

李明哲氏(筆者撮影)

 また企業から見れば、服役囚の労賃は非常に安い。私たちの月収はどんなに多くても130元(約2680円)ぐらい。さらに生産ノルマが達成できなければ、ここから大幅に減額されました。私もたった6元(約123円)しかもらえない月がありました。しかしこのような低賃金・長時間の強制的な労働力を使った生産は、もちろんながらフェアトレードの原則に反します。

 李氏が指摘している米国企業とはミルウォーキー・エレクトリック・ツールである。電動工具と関連用品を展開しており、その製品は米国の小売店で広く販売されている。同社製品を巡る囚人労働の疑いから、米税関・国境警備局(CBP)は2024年4月、同社と取り引きのある上海企業3社に米国への輸入差し止めを命じている。また同年6月には、赤山監獄で李氏と同様に労働に従事させられていた元服役囚が同社と親会社の香港上場企業を米国で提訴している。

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