夏の日も日傘を差せない理由

 夏真っ盛りでも、きちんとした服装でないと有権者のウケが悪いので、必ずジャケットを羽織る。これは後援会の重鎮おばさんからのアドバイスだった。気取って見られてはいけないので日傘も差せない。毎日、日焼け止めをべったり塗って出かけていった。

 妻はこの時期、毎日役目を終えて帰宅するとヘロヘロになっていた。帰宅すると精魂尽き果てるらしく、シャワーを浴びて夕食を取ると、死んだように床に就いた。ふだんから夫婦の会話が多いほうではないが、この時期はさらに減った。

 訪問先の有権者から市政への不満を言われた日などには、「あんた、ちゃんと仕事やんなさいよ」とどやされた。

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 2期目から始まった「連れ回し」は、期を重ねるたびに充実していった。市内の戸建て住宅や分譲マンションのほとんどに妻は顔を出したのではないか。「奥さんが来てくれたわよ」という声を何人もから聞かされた。

 妻の顔は市内で相当売れ、評判も良かった。よく「清水市長の票の半分以上は奥さんが稼いでいる」とか、「奥さんが選挙に出たほうがダンナより強い」とも言われた。実際に、後援会の中には、「清水市長がある程度のところで辞めて、そのあとに奥さんが市長選に出ればいい」と余計なアドバイスをしてくれる人もいた。

 妻も自らの貢献を自負するようになっていった。もともと私の家庭での立場は強いほうではないが、選挙での活躍のおかげで私はますます逆らえないようになった。

 政治家の妻が行なうのは選挙活動だけではない。時にはお詫び行脚行なわねばならない。

 何期目かの選挙の出陣式のこと。県内の市長や国会議員を招待し、支援者の前で激励のあいさつをしてもらった。ところが、司会のウグイス嬢がある代議士の紹介を忘れたまま、出陣式が終わってしまった。

 その日の午後、その代議士の秘書から、私の選挙事務所に電話がかかってきた。