「自費出版じゃないんだけど、5000部を買い上げて、支援者に配っているんだよ」

 選挙が近づくと、多くの政治家が本を出すが内容が薄い、読み応えのないものばかりになってしまう理由とは……。千葉県鎌ケ谷市の市長を5期務めた元政治家の清水聖士氏の新刊『市長たじたじ日記――落下傘候補から、5期19年、市長務めました』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

写真はイメージ ©getty

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「支援者に配っているんだよ」

 市長室宛に、知り合いの議員から本が届いた。カバーには、カッコつけた本人の写真がデカデカと使われている。出版元は誰もが知っている大手出版社だった。

 彼とは近々、ある会合で顔を合わせる予定があった。せっかく送ってきてくれたのだし、ざっと目を通して感想でも伝えれば喜ぶだろうと思い、家に持ち帰ってベッドの上で読み始めた。だが、半分もいかずに放りだした。自分がこれまでに残した業績と、きれいごとと理想論しか書かれておらず、ちっとも面白くないのだ。

 その後、会合でその議員と会って、本の話になった。

「自費出版じゃないんだけど、5000部を買い上げて、支援者に配っているんだよ」

 彼の説明を聞いて、まあそんなところだろうと得心した。

 政治家が書いた本はたくさんあるが、どれもたいてい面白くない。ほとんどが自己宣伝か、自分の主張の垂れ流しだからだ。きっと出版社側も、買い上げてくれる“お得意さん”の機嫌を損ねるわけにもいかず、やりたいようにさせるのだろう。

 本の体裁はしているものの、これなら選挙で配るチラシと変わらない。とはいえ、5000部も買い上げたら数百万円の持ち出しになる。本の内容にはちっとも心動かされなかったが、彼の資金力はなかなかのものだと感心した。

 さて、本書はどうだろうか。