人間には犬に負けない凄い嗅覚がある、耳はじつは「視力」を持つ、フェロモンは「命令」と「服従」でもって動物の自由意志を揺るがす——これらは、五感(視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚)や第六感(直感やシックス・センス)を超えて、最新の科学研究で分かった〈超感覚〉の数々である。

 フィナンシャル・タイムズ紙の年間ベストブックにも輝いた話題のサイエンス本『人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー』(ジャッキー・ヒギンズ著 夏目大訳)から、人間が秘める驚きの〈超感覚〉の数々を紹介する。

「人間には五感がある」と唱えたアリストテレスは間違っていた

 私たちは幼い頃から、人間には五つの感覚、いわゆる五感——視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚——があると教わり、それをそのまま信じていがちだ。だが、それは本当だろうか。

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 五感という考え方が生まれたのは、じつは2000年以上前のこと。アリストテレスが紀元前350年頃に、著書『霊魂論』のなかで五感に触れている。その後、シェイクスピアもやはり五感に言及しており、現在でも世界中のほとんどの人が人間の感覚は五つだと信じている。

 しかし、じつはアリストテレスは間違っていたことが、最近の科学研究によって証明されている。

 少し前まで、人間の「第六感」などと言えば、テレパシーなどの超能力の類とされていたのが、そうではなくなっている。第六感どころか、感覚は七つ、八つ、九つ、もっとあるかも知れないのだ。これは一体、どういうことか。

現代の認知神経科学によると、「五感」どころか「33感」もある?

「現代の認知神経科学は、五感説に挑戦し続けている。感覚は五つではなく、私たちの研究によっておそらく33種類くらいには増えそうだ。いずれの感覚にもそれ専用の受容器官がある」——神経生物学者のコリン・ブレイクモアはこのように語っている。つまり、感覚はアリストテレスの時代よりも大きく増殖しているのだ。

 感覚の数え方は研究者によってそれぞれ違う(本書では12種類の感覚を紹介している)。だが、目や耳、皮膚、舌、鼻のはたらき方が一通りではない、ということでは意見は一致している。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のはたらきは、どれも確実に二通り以上存在しているのだ。

 たとえば、目が実は空間だけではなく、時間も感じ取っている。さらにはコンパスのように方位を感じ取る力を持っているのではないかと考える研究者もいる。

 内耳は音を感じ取ることができるが、同時に、自分が平衡を保っているかを感じ取ることもできる。

 舌は味を、鼻はにおいを感じるとされるが、私たちが体験している食べ物の味は両者の協力によって生まれている。また、鼻は空気に含まれるにおい以外の情報も検知できる。

 さすがのアリストテレスも、絶えず働いているのに意識されることがない、これら多数の感覚の存在には気づけなかった。