動物と人間は感覚器官における進化の過程を共有してきた
『利己的な遺伝子』の著者であり進化生物学者のリチャード・ドーキンスは、「世界を普段とは違ったふうに見る。そうすれば、この世界に生まれ落ちたばかりの時の感覚を取り戻せるだろう」と言う。そのためには、進化の系統樹がその役に立つかもしれない。
というのも私たち人間は、過去の長い歴史をすべての動物たちと共有しているからだ。しかし実際のところ、海の動物も陸の動物も空を飛ぶ動物も、持っている感覚はじつにさまざまだ。
たとえば、ヒナデメニギス(深海魚)は、深い海の中でかすかな光を感じ取れる並外れた能力を持っている。ホシバナモグラ(モグラの一種)は、触覚を使うことで、日光の届かない地中のトンネルの中を迷うことなく移動できる。オオクジャクヤママユ(蛾)のオスは、月の出ていない真っ暗な夜に、においを頼りにメスを見つけることができる。
いずれも極端な能力であり、一見、動物がそれぞれいかに異なっているかを証明しているようだ。しかし、よく調べると、じつはあらゆる動物の類似性が見えてくる。みな、共通の祖先から進化してきた“親戚”だから、“親戚”たちの感覚について調べ比較してみると、人間の感覚についてもより深く理解ができるのだ。
人間は1兆種類のにおいを区別できる——「内なる犬」を目覚めさせよ
動物たちを通して分かってきた、私たち人間が秘める不思議な〈超感覚〉とは、果たしてどんなものなのか。本書のカバー目次から、ざっと紹介してみよう。
【内なる嗅覚】
人間は1兆種類のにおいを区別できる。「内なる犬」を目覚めさせよ
【超味覚】
“泳ぐ舌”と呼ばれるアマゾン川の怪魚と“超味覚”を持つ人間
【色世界】
色の嵐を生きる人間vsモノクロームを生きる人間
【触覚と脳内画像生成】
全盲の画家が存在する理由
【耳は「視力」を持つ】
闇の狩人フクロウの「聴力図」とヘレン・ケラー
【時間感覚】
完全な闇のなか、時間が分からないまま生きられるか
【フェロモン】
動物の自由意志を揺るがす。夜の巨大クジャク蛾と人間の興奮
【方向感覚】
人間も渡り鳥になれるか。豪州の先住民は地球の磁気を感知か
【非・幽体離脱】
”地球外”の知的生命体・タコと人間の身体感覚 ほか
世界は〈超〉美しい——目を、耳を、皮膚を、舌を、鼻を開こう
こうした感覚は、はたらいていることが意識されないので、アリストテレス同様、ほとんどの現代人もその存在を知らないままだ。しかし、意識されない感覚も感覚であり、これからもそのような感覚がさらに見つかる可能性がある。
だからこそ、目を、耳を、皮膚を、舌を、鼻をもっと開いてみよう。われわれが感覚器官を開くことができれば、世界の美しさを今までよりもっと深く味わえるはずだ。それは、21世紀の「センス・オブ・ワンダー」ともいうべき奇跡のような体験なのかも知れない。

