玄関をくぐると、鮮やかな青色が目に飛び込んできた。壁一面が、「ヌビアンブルー」と呼ばれる青で塗られていたのだ。ヌビア人たちは、ナイル川の恵みを表すこの色をこよなく愛しているという。さらに驚いたことに、寝室など一部を除いて、家には屋根がない。ほとんど雨が降らないからだそうだ。

「歴史は、私たちの血に流れています。ナイル川の水に流れています」

オサーマ家を訪ねる堺さん ©NHK

 オサーマさんたちは、この地の郷土料理でもてなしてくれた。ナスとオクラの煮込み、チキンと羊のグリル、モロヘイヤのスープ、油で炒めたご飯……。異国情緒あふれる香りが、食欲をそそる。堺さんは、納豆のように粘り気のある濃厚なモロヘイヤを特に気に入ったようだ。私たちもお相伴にあずかったが、意外と味はあっさりしていて、どれも実においしい。そのおかげもあって、堺さんとオサーマさんたちとの会話は大いに盛り上がった。古代エジプト文明の発展に大きな役割を果たしながらも、長らく歴史の表舞台には出てこなかった少数民族・ヌビア人。オサーマさんの妻・モナさんの言葉が、強く心に響いた。

「私たちの歴史が忘れられることはありません。なぜなら歴史は、私たちの血に流れています。ナイル川の水に流れています」

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オサーマ家でふるまわれた郷土料理 ©NHK
オサーマ家での食事風景 ©NHK

 その後、ご近所の人たちが集まり、この地の伝統の音楽を演奏してくれた。ばく大な黄金を産出した故郷をしのぶ歌だ。太鼓のリズムに乗って、大人も子どもも、皆がダンスを踊り出す。堺さんも、オサーマさんと肩を組んで輪に加わった。早朝から王家の谷で撮影を行い、そのまま300キロ近く移動してきたのだ。さぞかし疲れているだろうが、それを感じさせることなく、ステップを踏み続ける。長く激しい音楽とダンスは、夜が更けるまで続いた。

踊る堺さんとオサーマさんたち ©NHK

ロケ最終日に訪れたのは「フィラエ神殿」

 そして、ロケ最終日。堺さんと私たちは、ナイル川の波止場から船に乗り込んだ。ここまで来ると、観光客の姿もまばらだ。陽光輝く水面の先に、アスワン・ダムが見える。向かうのは、“ナイルの真珠”とたたえられる、美しいフィラエ神殿。今回の旅の終着地だ。

船でフィラエ神殿に向かう堺さん ©NHK
フィラエ神殿 ©NHK

「これは、すごい……」