人類最古の文明の一つであり、三千年もの長きに渡って繁栄をとげた古代エジプト。近年、重要な考古学的発見が相次ぎ、巨大博物館のオープンが年内に予定されていることもあって、熱い注目を集めている。8月19日と20日、2夜連続72分の拡大版で放送されるNHKスペシャル「エジプト悠久の王国」は、番組ナビゲーターに堺雅人さんを迎え、古代エジプトに残された大いなる謎の解明に挑む。(文・番組ディレクター 八木下雄介、全2回の2回目/前編から続く)
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ブラックファラオの真実に迫る
王墓をあとにすると、ルクソールで撮影を続ける青木亮ディレクターたちと別れ、陸路、南へと向かった。目的地はスーダンとの国境すぐ近く、アスワン近郊。そこには、ヌビア人と呼ばれる黒人の少数民族が暮らしている。名前の由来は、古代エジプト語で「黄金」を意味する「ヌブ」。かつてこの地には、大量の黄金を産出したヌビア人たちの国があったのだ。ツタンカーメンの黄金の秘宝の数々は、ヌビア人がもたらした金で作られたという。後に彼らの王は、分裂状態にあった古代エジプト王国を平定し、ブラックファラオと呼ばれた。番組は、堺さんとともにヌビア人の末裔を訪ね、近年重要な発見が相次ぐブラックファラオの真実に迫っていく。
笑顔で手を振る日本人の姿が…
砂漠地帯を貫く長い道路を、ひたすら走る。見渡す限り、乾燥した大地が広がる。日が沈みかけた頃に、車はようやくアスワンに入った。そこからさらに未舗装の道を行き、ナイル川のほとりへと進んでいく。周囲に人影はなく、民家がまばらに建っているだけ。この辺りはスマホの電波が入らず、地図アプリも使えない。少し不安になってきた。もしかしたら、道に迷ったのではないか。こんな所に堺さんを連れてきて、大丈夫なのか……。その時、こちらに笑顔で手を振る日本人の姿が目に飛び込んできた。ブラックファラオパートを担当する、森田健司ディレクターだ。ほっと一安心。普段から慣れ親しんだ同僚だが、遠い異国の地で妙に頼もしく感じた。
森田ディレクターの案内で訪ねたのは、ブラックファラオを生んだヌビア人の末裔であり、祖先の文化を伝承しながら代々この地で暮らすオサーマさん一家のお宅だ。堺さんとオサーマさんたちとの交流を描く、重要なシーンの撮影が始まった。
