神殿に足を踏み入れると、堺さんは息をのんだ。現れたのは、巨大な門。その壁面には、躍動する古代エジプトの神々の姿があった。八百万の神々がいる日本と同様、多神教だった古代エジプトの宗教文化を、鮮やかに伝えていた。
だが同時に、フィラエ神殿は文明の終焉を伝える遺跡でもあった。最後の女王クレオパトラが亡くなり、エジプトがローマ帝国の一部となると、キリスト教の教会として使われるようになったのだ。異教の神々の顔は削られ、代わりに十字架が刻まれた。堺さんは旅の最後に、古代エジプト文明の落日を目撃したのだ。
「エジプトは、大きな『劇場』なんです」
短くも、濃厚な旅だった。ナイル川の向こうに、太陽が沈んでいく。堺さんは、その光景を見ながら、古代エジプトへの思いを語ってくれた。
「文明は生き物なんだと感じました。人と同じように、生まれて、大きくなって、そして死んでいく。でも、それは決して悲しいことではない。なぜなら、生きた跡が残るから。今の僕たちが、それを見ることができるから。僕はむしろ、前向きな希望のメッセージとして受け止めました。エジプトは、大きな『劇場』なんです。ナイル川の東から太陽が昇り、西に沈んでいく。毎日、死と再生が繰り返される。まるで大きなドラマを見ているようです」
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NHKスペシャル「エジプト悠久の王国」の放送は、総合テレビで8月19日・20日、夜7時30分から。堺さんと一緒に、三千年の歴史の旅をお楽しみ下さい。
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