民間の場合には、労働基準監督署が労災の判断を下す際、◯月◯日は何時何分から何時何分まで勤務して残業時間は何時間という1日ごとの労働時間の表を作成しているため、仮に実際の時間が労基署の判断する時間と違っていた場合に、「この日はもっと残業していた」とあとから主張することができるが、これではそのような「検証」さえできない。

 また、「基金本部が委嘱した脳血管疾患の専門医の医学的知見」として、「本人が従事した職務に過重性が認められないのであれば、自然的経過により、本件疾病を発症したと考えるのが相当である」という医師による意見も述べられているが、この医師が誰なのかは遺族からはわからないようになっている。これでは、この医師にどういう専門性があるのか、また、いつどういう状況で、いかなる資料をみてこの医師がこのように判断したのかが把握できず、やはり検証不能になる。

諦めず、審査請求を行なった結果は…

 義男さんの負担は、「経営者」である横浜市教育委員会自身が「通常、転勤した初年度に生徒指導専任を担当することはまれであり、学校において生徒指導専任や教務主任の教諭は、他の教職員より業務量が多くなる」と認めているほど大きかった。それにも関わらず、義男さんの死は公務外と認定されてしまった。しかし祥子さんは諦めずに、元同僚の教員とともに、認定を求めて署名活動に取り組んだ。その中で、「弁護士がいたほうがいいのでは」という元同僚のアドバイスを受けて、偶然テレビを付けた際に流れていた「過労死110番」の報道をみて弁護士に相談することに決めた。そして、地方公務員災害補償基金の公務外認定を覆すよう、審査請求を行なった結果、2013年1月にようやく公務災害と認定された。

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今野氏が上梓した『会社は社員を二度殺す 過労死問題の闇に迫る』(文春新書)

教員の過労死に真摯に向き合おうとしない国や地方自治体

 あまりに過酷な労働環境を嫌ってか、教員志望数も年々減少傾向にあり、東京都の教員採用試験の倍率は昨年、一昨年は3倍を切っている。教員志望者の増加を狙って2021年に文部科学省がSNSで行ったプロジェクト「#教師のバトン」は、むしろ、現役教員からの悲惨な労働環境を告発するツイートで溢れた。全日本教職員組合・教組共闘連絡会の調査によれば、欠員が全国で2128人にものぼっており(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/620128)、教員不足の深刻な実態がうかがえる。