しかし、国や地方自治体は、「教職がいかに素晴らしいかをアピール」することには熱心でも、これまでの長時間労働や精神疾患の蔓延、過労死の実態を軽視していると祥子さんは訴える。たとえばこれほど話題になっている教員の労働環境の改善についても、テクノロジーの導入といったICT化は積極的だが、「教員の過労死があってはならない」と国がはじめて言及したのは極めて最近(2019年1月)であり、しかも各都道府県が作成する「学校の働き方改革プラン」で「過労死対策」に言及していたのはわずか1県(岐阜県)のみである。これまで何人がどういう理由で過労死し、何件が公務災害と認定されたのかは結局のところ、分からずじまいである。これでは、過労死が起こった責任や実態を無視したまま、とにかく人を集めようとしていると思われてもおかしくない。

 教員が長時間労働にさらされていると子供にとってもいい影響にはならないと祥子さんは話す。教員が自身の長時間労働に対して何も言えずに働き続けている姿を生徒はみており、このように長時間労働に耐えることがいわば社会人として「あるべき姿」なのだとロールモデルになってしまうという負の教育的効果も無視できないという。

教師の過労死を繰り返さないために今すべきこと

 祥子さんが2022年、妹尾昌俊氏との共著『先生を、死なせない。(教師の過労死を繰り返さないために、今、できること)』を出版したのは、それも酷い過労死の事件があるということを訴えたいわけではなく、むしろこれからどうしていくのかを議論したいという思いで書いたと話す。未だに学校は情報公開に消極的で、公務災害の遺族とともに、責任追及ではなく単純に実態を知りたいと学校を訪れてもほとんど話してくれないという。これでは今後に必要な対策を議論するための素地すら作ることができない。まさに実態調査と遺族への補償、そしてそれを基礎とした改革が求められている。

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