中国の現状は「偽りの夜明け」

 また、株価の動きも違う。日本のバブル崩壊では株価も大きく暴落したが、中国の株価はほとんど下がっていない。これはバブル崩壊の傷が浅いと見ることもできるが、今後さらに、地価も株価も長く深く下落するリスクがあると解釈することもできる。不動産価格が3年以上も下がり続けているため、値上がり益を期待する投機的な買い手は、買い控えの傾向を強めている。中国不動産市場で「値下がり→買い控え→さらなる値下がり」という典型的なバブル崩壊のスパイラルが続いているので、それがこれからさらに加速する懸念はあるだろう。今のところ北京や上海の不動産価格は、高値のまま下げ止まっているが、これで不動産不況が終わると思っている関係者は少ないという。現地の日本人専門家いわく、これは「偽りの夜明け」なのだ。

中国最大のゴーストタウン、オルドスのマンション群 Ⓒ時事通信社

 中国の銀行システムの自己資本は分厚く、いまのところ安泰であることも日本との違いだ。不動産デベロッパー向け融資がすべて回収不能になるシナリオでストレステストをしても、銀行の自己資本比率は十分に健全なレベルを保つことが分かっている。しかし安心はできない。日本の銀行の経営も、バブル崩壊直後の1991年から1993年ごろまでは、表面上はそれほど悪化していなかったのだ。当時、日本人の大半は、「株価も不動産価格も、数か月後には回復し、再び上昇を始めるだろう」と考え、消費も旺盛に増え続けた。1992年の段階では、日本の不良債権額は約8兆円(日本のGDPの約1.6%)といわれたが、銀行は多くの含み益(保有資産の時価が簿価〔取得価格〕よりも高い場合、差額を含み益という)を保有していたため財務の健全性はまったく揺るがないと思われていた。しかし、その後、資産価格のさらなる下落によって含み益は消失し、1997年には大規模な銀行危機が起きたのである。2005年までの累計で、損失処理された日本の不良債権の総額は約100兆円(2005年のGDPの約20%)に達した。

出典元

文藝春秋

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