人が亡くなったあとは「部屋全体の床が濡れてる」

――事故物件の取材はどういう状況で行うのですか?

らむ 遺体だけ運び出された状況で取材しました。ゴミ屋敷級に荒れている場合もありますし、ものすごい几帳面に整った部屋もありました。

――らむさんの著書によると「人が亡くなったあとは、部屋全体の床が濡れてる」そうですが、そんなに広い範囲が汚れるんですか? 

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らむ どこまで広がるかは腐乱していた期間によります。数日で見つかればいいのですが、長い期間だったらどこまでも広がります。

 まず、血のしみが出るじゃないですか。それ以外にも透明な液体が人間の体からは、いっぱい出るんです。脂とか水分とか。それが本当に部屋中の床に広がる感じですね。人間の体は60%以上水分だから、相当の量の水分が出るわけです。腐敗して溶けて、広がって。

©︎文藝春秋

――ひと部屋で止まる感じですか。

らむ 床板を伝っていっちゃうので、家中に広がることもある。においをなくそうと思ったら、床を全部剥がさないといけないこともあります。だから「心理的瑕疵(かし)物件」と言いつつ、実際の「物理的瑕疵」もあるよね、って。

――恐ろしい。

らむ 事故物件では、そういうリアルな現状を取材してます。僕は心霊とか信じていないので、そっち方面ではやってません。

自ら怪奇体験をしようとも「心霊否定派」の信念は揺るがず

――文春オンラインで公開された松原タニシさんの記事では、らむさんにも謎の電話がかかってきた、とありましたが。(“事故物件”に住んで6年 芸人・松原タニシが語る「非通知の電話に出ると子供の声で……」参照)

らむ ありましたね。お母さんが息子に溺死させられた物件にタニシさんが住んだら、電話がかかってきて「ゴボゴボ……」っていう音がしたっていう。その話を聞いて僕が記事を書いたら、書き終わった瞬間、知らない番号から電話がかかってきて、取ったら「ゴボゴボゴボ……」。一回切ってリダイヤルしても出ないし、番号を検索してもよくわからなかった、という。まあ、ネタとしては面白いと思ってますけど。

――そんな体験をしても、らむさんの中では心霊認定されていないんですか?

らむ 僕は心霊認定しないんでね。でもまあ、起こったことは事実です。

――ご自身の体験でも認定しないんですか。完全に心霊否定派?

らむ 普通に否定派ですよ。僕はゴミ屋敷を扱うまでは「怖い」で稼ごうと全く考えていなかったんです。いわゆる「サブカル&おもしろ」で来たんで。たまに心霊スポットの記事も書いたけど、原則「潜入してみた」とかであって「怖い」って切り口では書いてなかった。樹海に関しても、どちらかというと「怖くないよ」「縦断できるよ」みたいに、あけすけに語って解き明かす側の記事ですし。

――よく怪談YouTuberや怪談師とコラボもしていらっしゃいますが。

らむ 怪談大会に呼ばれることになったとき「霊怖の話は持ってないですよ!」って言ったら「自分なりの怖い経験でいいです」って言われたので、人怖の経験談を話したらウケて、嬉しいことに多くの場に呼んでいただくようになって、“人怖を語る人”になっていったんです。