人工知能の先駆的な研究者として知られる、数理工学者の甘利俊一氏。自身の研究へのスタンスや、現在の研究環境への思いを語った。

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数理という軸で横断

 振り返ってみると、電気回路の数理解析、材料力学、それから情報理論という全く違う三つの分野を大学院の間に横断していました。この分野に詳しい人が聞くとびっくりされるほどジャンルがバラバラですが、隔たりがなく、自由に研究できることは本当にありがたかった。数理という軸でこれらを横断できたことに、大きな手応えがありました。

甘利俊一氏 Ⓒ文藝春秋

 その後、九州大学、東京大学、理化学研究所という三つの研究機関に所属して、主に数理脳科学と情報幾何学という異なる二つの分野の研究に取り組みました。このうち人工知能が関わるのは数理脳科学です。九州大学に就職した4年間、東京大学に着任してからの10年間は主に数理脳科学を研究し、その後、情報幾何学に挑戦したのです。このように異なる2分野を開拓できたのは、近藤一夫先生の「目を広く開くこと」によるものだと思います。

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ChatGPTも甘利氏の研究成果の延長上にある ⒸAFP=時事

 また、60年代は高度経済成長期の波に乗り、研究者にとって良いポストも増えていきました。それまでは大学を卒業すると助手になり、その後に助教授へと進んだものですが、私の場合は助手を飛ばしていきなり助教授に着任。身分が保証されながら、好きな研究にじっくり取り組めたのです。