供述にはいかにも無理があった。なぜ母は9年間の浪人生活を許しながら助産師の試験に落ちたことで自殺する気になったのか。看護学科に通っていたのに、なぜ救命活動を行わなかったのか。進路をめぐり母と娘の間に確執があったことも想像に難くない。やはり、しのぶさんを殺害したのは、あなたではないのか? 警察は厳しく追及するも、のぞみ容疑者は頑なに容疑を否定した。

 しかし、状況証拠などから犯人は彼女以外にありえないとして逮捕から3ヶ月後の9月11日、殺人容疑でのぞみを再逮捕。10月2日に追起訴する。この時点でも本人は否認し続けていたが、しのぶさんを殺したのは娘ののぞみで間違いなかった。

「重い学歴コンプレックス」を抱えた母

 のぞみは1986年、守山市で生まれた。父親はビルのメンテナンス会社に勤務、母は専業主婦。のぞみは一人っ子だった。母は教育熱心で、娘が幼いころから通信教材を買い与え将来は医師になることを切望した。

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 のぞみが幼稚園生のころ、迎えに来た母はジャージにヘルメット姿で自転車に乗る公立の中学生を見て「頭がよくない。みっともない」と蔑むように言った。なぜ、そんな言葉を口にするのか。のぞみの後の証言によれば、工業高校出身の母には学歴コンプレックスがあり、より偏差値の高い学校に入り、より社会的地位の高い職に就くことが人生の勝ち組だと信じて疑わなかったようだ。彼女にとって、それが娘を国立大学の医学部に入学させ、医者にすることだった。

 1997年、小学校5年のとき天才外科医を主人公にした手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』を読み、のぞみは母から言われ続けてきた医師に自らも憧れる。学校のテストの成績も悪くなかった。が、その点数が90点に達していないと、母は「これじゃあ、みっともない公立中学にしか行けない」と不満を顕にし、買い与えた問題集を必死に解くよう命じられた。