夢がくれた人生の覚悟、創作へのヒント

小川 ありがとうございます。余談ですが、フランケンシュタインとは長い間向き合ってきましたが、その昔、博士論文を書いていた頃、夜な夜なモンスターに襲われる悪夢にうなされていたんです。このままだと私は死んでしまうと思って、いったん書くのを断念しました。

宮田 ええ!

小川 その次に見た夢が、巨大な風船のウサギが蝶ネクタイをして、ニコニコしながら機関銃を乱射して人間を襲ってくるんです。場所はなぜか幼少の時に通っていた小学校の体育館。もうシュールすぎる光景ですが、もうダメだと思って振り返ったら、突然自分が完全武装のシルベスター・スタローンに変身していた。その瞬間、風船のウサギがパチンと消えて、普通の可愛いウサギに変わりました。

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 そこで目が覚めたのですが、この夢を見て、私は覚悟が決まったんです。それまで自分の人生をどうするか迷っていましたが、ホラーやゴシックの文学研究を専門にして生きていくぞ、と。以後、悪夢を見なくなりました。

宮田 すごい話ですね。私は夢から創作のヒントをもらうことがよくあります。明晰夢を見ることが多いので、夢の中で「こうしたら物語として面白いな」と考えて展開を変えたりして。以前、好きな人のストーカーをしている女の子の夢を見て、そのキャラクターからプロットを作ったこともあります。

宮田愛萌さん

スケザネ 平安時代には、夢がお告げとして政治にも活かされたくらい重要なものだったらしいですね。「枕」の語源は、巫女が神のお告げを得るために蔵(くら)で寝た「魂(たま)の蔵(くら)」だという説もあるくらいです。夢は貴重品で、良い夢は人との間で交換されることもあったとか。「お前すごいいい夢見たんだな。それ俺が見たことにしてくれよ」みたいな(笑)。いい夢を見ようとすることも、ある種のクリエイティブな創作能力と言えるのかもしれない。

小川 ノーベル文学賞作家のハン・ガンも、創作のきっかけは夢だと語っています。『別れを告げない』も、ひどい悪夢にうなされた経験から書き始め、書き終えた時に悪夢を見なくなったそうです。私たちの中にある、声にならないもの、形にならないものが、夢を通して現れ、それを言葉にしていく作業が創作なのかもしれませんね。

スケザネ 今日は多岐にわたる視点から、推しや創作、ケアまで話を深めることができてとても面白かったです。互いの本は深く響き合っていて、今の社会で何が起きているのか、それに対して言葉や物語はどう立ち向かえるのかを探っている一つの処方箋だと思うので、ぜひ多くの人に読んでいただきたいですね。

宮田 私はこれまで多くの感情を物語から学んできましたが、人間と人間がするケアというものの本質も物語から学べるんだと、小川さんの本で気付かされました。私たちの往復書簡は似ているようで正反対な二人の視点が交差するのできっと面白いはず。ぜひ合わせて読んでほしいですね。

小川 お二人の『晴れ姿の言葉たち』からも生きる力をもらいました。ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。

(青山ブックセンターにて)

『晴れ姿の言葉たち』
『ケアの物語』

晴れ姿の言葉たち

宮田 愛萌 ,渡辺祐真(スケザネ)

文藝春秋

2025年6月25日 発売

最初から記事を読む 仕事と引き換えに6時間のマンスプ、握手会での辛辣な言葉……声を上げられない人を救う“共事者”ケアという突破口