小説家の宮田愛萌さん、書評家のスケザネさん、英文学者の小川公代さん――異なるジャンルで活躍する三者が、『晴れ姿の言葉たち』(宮田・スケザネ共著)と『ケアの物語』(小川著)の刊行を記念してトークイベントを行った。他者とどう向き合い、言葉を交わし、共に生きていくのか? 「推し」「ケア」「物語」などをキーワードに互いの洞察が光る。

◆◆◆

スケザネさん(左)、宮田愛萌さん(真ん中)、小川公代さん(右)  撮影・杉山拓也(文藝春秋)

「思考」「感情」「肉体」の三人が同居していて…

スケザネ 今日は、普段からラジオ番組や様々なイベントを一緒にやっている宮田さんと僕が、ケアの概念を文学界隈に広めた先駆者である小川公代先生をお招きして、お互いの新刊について語り合おうというイベントです。

ADVERTISEMENT

 じつは僕は小川さんの家でよくご飯を食べさせてもらっていて、もう甥っ子のようにかわいがってもらっています。恋愛で悩んだときには長電話したりして(笑)。

小川 だいぶ甘えてますよね(笑)。宮田さん、はじめまして。

宮田 めっちゃ緊張していますが、すごく楽しみです!

小川 お二人の往復書簡『晴れ姿の言葉たち』を拝読して、私の新刊『ケアの物語』と重なる問題意識を感じました。本書は、フランケンシュタインという作品を軸に尊厳を踏みにじられた人々が紡ぐ〈小さな物語〉を「愛」や「アンチ・ヒーロー」といった様々なテーマから読み解いたものですが、同じような課題感を持って生きてこられたんだなと嬉しくなりました。

 面白かった視点はいくつもありますが、まず宮田さんが書かれていた、自分の中には「思考」「感情」「肉体」の三人が同居しているというのがすごく印象的でした。

宮田 ありがとうございます。私の場合、なにか物事が起こった時に、まず「思考」が考え、それに対して「感情」が反応し、「肉体」が動くんです。この三人で話し合って、私の人生の行き先を決めてくわけですが、感情はなにか起きたときに生理的な反応や、反射的に感じてしまうことを生業にしているので、やっぱり思考を困らせてしまう。そこに思考との連携が下手な肉体が加わって、三人で格闘している感じですね。

「思考は高いところが好き、感情は狭いところが好き、肉体は日陰が好き」なんです。

宮田愛萌さん

小川 そのたとえが、もう詩になっていますね! スケザネさんも、感情を使いすぎて書けなくなった時のことを書いていました。

スケザネ その手紙を書いた時、ちょうど「仕事イヤイヤ期」だったんです。感情さんと思考さんが完全に疲弊してしまって、もう現場が回らない。とりあえず生きていくので精一杯で、1ヶ月間、頭を下げて仕事を片っ端から飛ばしました。でも肉体は、買い物をするにもご飯を食べるにも最後の砦なので、ここだけは守ろうと意識しました。

宮田 私は一時期、感情と思考は「仕事頑張ろう」って言ってるのに、肉体が完全に疲弊して動けなくなったことがあります。そんな時は、歩いても普段10分で着く距離が30分以上かかってしまう。肉体が「もう無理だよ」って叫んでる声が本当に聞こえた。調子が崩れていく時、必ず三者のだれかが音を上げるんですよね。

スケザネ 小川先生の感覚ではどうですか?