「100匹の怠惰な羊」を飼っているイメージ

小川 私の場合、具体的な思考さんや感情さんというより、自分のなかで「100匹の怠惰な羊」を飼っているイメージなんです。

宮田 えーっ、素敵!

小川 大学時代にある思想家の本を読んでいたら、「みんな自己というのは一人だと思っているけれど、羊が100匹いるようなもの」みたいに書いてあって、自分がなかなか課題を始められない理由がわかったんです。ああ、私の中にでっぷりと太った怠惰な羊が100匹もいるから、私の意思では動かせられないんだなぁと。

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小川公代さん

スケザネ 怠惰な羊!(笑)。

小川 しかも、なかなか動かないこの羊たちは、一度走り出すと今度は暴走して止まらなくなる。20時間ぶっ通しで何かを書き続けて倒れたりして……感情と思考と肉体のバランスが悪く、急に止まったり走ったりを繰り返している人生ですね。

宮田 でもそれをうかがって、小川さんご自身が、その羊たちを導く「牧羊犬」なんだなと思いました。

小川 牧羊犬! ものすごく腑に落ちる言葉でびっくりしました。そうか、私は人間じゃなくて牧羊犬だったんだ(笑)。

宮田 人間の足だと追いつけない時も、牧羊犬なら群れを追い立てて一緒に走ったり導いたりできますし。

スケザネ 小川さんの自己イメージって、『ケアの物語』にも出てくる「多孔的な自己」の話にもつながるようにも思いました。今の社会では「自立」して生きるのが理想とされていますが、自分というものを鉄壁にガードするんじゃなくて、ある種「穴だらけ」の状態にして、他者の影響や助けをどんどん受け入れていく。

 いろいろな人の思いを穴からいっぱい入れていって、人には頼ったり頼られたりする――そんなケアの実践的な精神のあり方としての多孔的な自己が100匹の羊なのではないかとも感じました。

スケザネさん

小川 なるほど。スケザネさんに指摘されるまで、まさか、自分の羊のイメージとケアのあり方がつながるとは思いもよりませんでした。確かに100匹を動かすには、やっぱり自分だけでは無理で、他人に何か言って約束したり、いろんな人から触発されたりして行動しますからね。思わぬ発見です。

 あと今日ぜひ話題にしたかったのが、女性の才能と社会の問題です。宮田さんはそれこそアイドル時代には厳しいトレーニングを積んでいたわけだし、文章を書くこともストイックな鍛錬を要します。なのに、プロとしてタレント活動をするとか、作家をしていることを女性だからという理由でちょっとなめて見られることってありませんか? 女性蔑視は社会のいたるところにありますし。