反省の色が見えず、自らの弁護人に見放される一幕も

 Bは歯科助手として働いており、Aとは上司部下の関係であったが、顔を合わせるのは月に一度程度で、当然プライベートな会話などする関係性ではなかった。カラオケに呼ばれたのも間接的なものであった。

 Aがその場に女性を呼ぼうと思った理由は「女性を呼ぶと盛り上がるため」であった。現場での性的な発言に自身の欲求解消の目的はなく、あくまで盛り上げるためと供述するものの、その態度について周囲から指摘されたことも幾度かあったという。

 Aの妻によると、過度な飲酒をすると性的な発言をするほかに、傲慢さが出るのだという。被害者参加代理人からも、事件当時Aから「何で俺の言うことがきけないんだ」、「この、下僕!」、「私立のくせに」といった暴言を吐かれたと主張があった。

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被害者は今回の事件で「歯科医師になる夢を汚された」としている 画像はイメージ ©beauty_box/イメージマート

 Aは法廷において、事件当日は過度な飲酒によって自身の傲慢な性格が出たと反省する言葉を述べた。今後は断酒し、クリニックなどにも通い、更生、改心、慰謝の気を忘れずに生活をしていくことなどを誓った。

 弁護人からは、大学院からの懲戒処分通知書が提出されている。これはAが事件による社会的制裁を受けている、という主張をするための資料だ。本来、被告人にとって有利に働く証拠であるが、その中に弁護人自ら弁解せざるを得ない箇所が残されていた。

弁護人「大学での事情聴取にて『わいせつ行為を認めたのは、不起訴処分を得るためのストラテジー(戦略)であり本意ではない』と述べたようですが」

 

A「確かにストラテジーと言いました。しかし、それは研究を続けたい思いからで、今となっては被害者の怒りを増幅させるものとわかっています」

 

弁護人「大学の方には、深く傷ついた被害者、その家族の気持ちを理解しようとしなかったと思われているようですが」

 

A「申し訳ないと思う気持ちは嘘ではありません。弁護士を介し謝罪を真摯にしてきたつもりです」

 業を煮やしたのか、裁判の中では弁護人がAに対して「あなた論理的にスラスラ言うけど、やった行為と乖離しすぎていないか」、「酒のせいというなら当時からやめろよ」、「次やったら免許も剥奪されて間違いなく破滅ですよ」と諭し、また「ストラテジーとか言うな」など強い口調で詰め寄る場面もあった。

 自らの弁護人に説教されたのである。この間、Aは頷くことしかできていなかった。

 懲戒処分通知書の提出がAに不利に働く可能性もわかっていたが、事実経過を伝えたい思いで取調べ請求したとも弁護人は説明した。