慰霊碑から徒歩1分の「原爆供養塔」

 でも皆さん、「原爆供養塔」ってご存知ですか?

 行ったことあるよって方、どのくらいいらっしゃるかな?

(会場の学生が数人、手を挙げる)

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 あ、4~5人はいらっしゃるのかしら。はい、ありがとうございます。

 この慰霊碑から北東に歩いて、本当に1分もかからない場所にこの原爆供養塔がありまして、「土饅頭(どまんじゅう)」とも言われるんですが、緑のお椀を伏せたような形のこの丘のような中には、今も遺骨が眠っています。原爆で亡くなったんだけれども、引き取り手がないまま、ずっとここで眠っている遺骨です。

南側の正面から見た原爆供養塔。土饅頭と言われ、小さな丘のような形をしている。(写真:堀川惠子)

 私は2015年、被爆70年のときに、『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』という本を書きました。ちょうど数日前に、この供養塔の内部が10年ぶりに公開されたという全国ニュースが報道されましたけれども、ちょうど10年前にこの本が出たときに、広島市長さんに交渉して、この供養塔の内部を開けていただいたんですが、それから10年経った今年もまた、地下室が公開されました。

大宅賞、石橋湛山記念  早稲田ジャーナリズム大賞など多くの賞を受賞した名著『原爆供養塔』。

 私がこの本を書いた一番の目的は、自分はそれまで被爆者、つまり生き残った方々の証言ばかりを聞く事をしてきたんだけれども、ノンフィクション作家として本当にやらないといけないのは、語る声を持たない死者たちに向き合うことではないか――そう思って、この供養塔に関する取材を始めました。

原爆供養塔の北側。地下の納骨堂に下りていく入り口が見える。ご遺族が、納骨堂に向かって手をあわせている。(写真:堀川惠子)

 供養塔は、南側の正面から見た写真はさっきご覧いただいたようなものなんですけれども、裏にまわりますと、地下室(納骨堂)につながる階段があって、北側に向けて入り口がかまえられています。

 今は無いんですけど、昔はここに小さな阿弥陀仏が入り口から入ってすぐの所、真正面に置かれてありました。その阿弥陀仏がちょうど入り口に向かって手を合わせておられるということで、遺骨が見つからないご遺族は、お墓の代わりにこの供養塔にお参りに来られた。そして土饅頭の南側ではなくて、阿弥陀仏が向いている北側にまわって手を合わせているんですね。