新浪 義務教育はもちろん、その後の高等教育においても、現代史を教えていくことは大切ですね。史実から学ぶ、これは経営においても、政治においても当てはまると思います。防衛大学校では相当学んでいるのではないですか?
香田 ええ。私たちの時代はかなり学びました。ただ、私はアナポリスの教官として2年間勤務しましたが、防大の戦史教育はかなり貧弱です。すべての基礎となる日本海軍の通史をしっかりとは教えていません。退官後、アメリカの海軍大学で10年間、日本海軍の失敗例について教えました。なぜ日本がバカなことをして負けたのか、しっかり学んでおかないと、将来あなたたちが負けることになるよ、という趣旨です。
楠木 戦争は悪いこと、悲惨なことであるのは自明のことで、それだけを教えても仕方がない。たとえば永野修身は頭のいい人だと思うんです。連合艦隊司令長官、海軍大臣、軍令部総長の三つを経験した唯一の軍人でもある。でも永野は1941年9月、「帝国国策遂行要領」が採択された御前会議後、統帥部を代表してこう語っています。「戦うもまた亡国につながるやもしれぬ。しかし、戦わずして国亡びた場合は魂まで失った真の亡国である。しかして、最後の一兵まで戦うことによってのみ、死中に活路を見出しうるであろう」と。究極の精神主義です。
しかしながら、精神主義だから、敗戦したのではありません。因果関係が逆で、必敗の状況に追い込まれると、永野のような優秀な人であっても、精神主義に陥ってしまう。戦争の歴史を学んで、何が原因で、何が結果なのかについての教訓を得ることが大切だと思うんです。
「日本のリーダーたちは努力を怠った。その結果、真珠湾攻撃をやり、太平洋戦争の敗北へと進んでいったのではないでしょうか」
新浪 歴史を学ぶことの重要性は、今日の皆さんのお話の随所に現れていたと思います。
明治維新当時の日本は、英語を使えるエリートが多かったと言います。江戸末期から明治初期、日本人は欧米列強の圧倒的な国力を見せつけられ、彼らから馬鹿にされたことをバネに、西洋の文明を必死で学んだ。しかし第一次大戦が終わり、戦勝国として今後の方針を議論するとなった時には、日本の外交官の英語レベルは低下していたそうです。
なぜか。日本は日露戦争に勝利した後、第一次世界大戦に至っては本気で参戦しておらず、国全体も厳しい状況を経験していません。それでも戦勝国になりました。この自惚れによって日本のリーダーたちは努力を怠った。その結果、真珠湾攻撃をやり、太平洋戦争の敗北へと進んでいったのではないでしょうか。
※本記事の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(「ザ・日本人好み」のリーダー〈真珠湾奇襲〉山本五十六名将伝説を検証する)。



