状況が改善されずにいるあいだに“事件”は起きてしまった。11月6日の休み時間中、1人で廊下を歩いていたツトムくんはAに突然後ろから羽交い締めにされ、首を絞められた。
「その時に、ツトムは後ろから右耳の近くを3発殴られました。学校から帰宅したあとも右耳に違和感が残っていたようで、『耳からチャプチャプ音がする』『少し聞きづらい気がする』と私に言いました。殴られたときに、少し頭がクラクラしたとも言っていました」
母親は「病院へ行こうか?」と尋ねたが、その時点では痛みまでは感じていなかったツトムくんは「きょうは行きたくない」と答えた。学校に相談することも考えたが、ツトムくんが「先生に言っても意味がない。見て見ぬふりをする」と言ったため、この時点では報告をしなかったという。
「ツトムが平気そうに振舞っていたので、私も『様子見ようか』と言ってしまいました。数日たってもう一度聞いたときも『まだちょっと違和感あるけど、大丈夫』という答えだったので、そのまま忘れてしまったんです。しかし実は、めまいやチャプチャプ音がずっと続いていたんです。あの時気づいていれば、と後悔してやみません」
11月7日には体育の授業で「ゴールキーパーなしのサッカー」が行われた。ツトムくんはルール通りにゴール付近で足だけでゴールを守っていたが、Aに「お前のせいでみんながそれやりだした。お前のせいや。クソが」と文句を言われたという。
それを聞いた母親は翌日、教頭に「話をしたい」と問い合わせ、同時に耳を殴られた事件についても伝えたという。
週が明けた11月11日。教頭から母親に電話があった。
「『全員に聞き取りをしたけれど、ツトムくんが殴られているところは誰も見ていません』と言われました。不満でしたが『今後は必ずこんなことは起こさない』と言われたので、私は『相手の親には事件について必ず伝えてください』と伝えて、それ以上は求めませんでした」
「右耳が聞こえなくなっている」「これはやばい気がする」
しかしクラスメイトの保護者と話す中で、Aの保護者に暴力事件について伝えていなかったことが発覚。そのため11月21日に行われた授業参観後の学級懇談の場で、母親は担任に「なぜ助けを求めているのに無視をされるのか。授業妨害をしている児童をなぜ止めないのか」と問いただした。
「一応、担任の先生は『すみません』とは答えるんです。しかし理由の説明は1つもありませんでした。他の保護者さんが『学校は問題のあるお家に伝えているのか』と質問すると、教務主任が『問題のお家には全て伝えている』と返答したんです。『2学期から教科担当制にして2人体制にして、暴力のないクラスで授業ができるように対策をしている』とも言いました。しかし現実に授業が成立していないではないか、と質問が飛んだのですが、時間がなくなったことを理由に懇談は打ち切られました」
それから1週間後の11月27日の夜、ツトムくんが母親に「右耳が聞こえなくなっている」と訴えた。
「その2、3日前から急に悪化してきたと感じていたようで、『これはやばい気がする』と私に言ってきたんです。 次の日の夕方に耳鼻科に行くと、『感音難聴』と診断されました。低音は正常に聞こえるものの高音はほとんど聞こえておらず、会話も聞きづらくなっていることが判明したんです。
それを聞いて、愕然としました。平気だというツトムの言葉を信じてなぜ病院に連れて行かなかったのか、何か方法はないのか、と色々な感情で頭がいっぱいになりました。今でもずっと自分を責めてしまいます」
