『ちはやふる』シリーズが描く、伝統的文化の変革
映画版の『ちはやふる』三部作は、百人一首という「日本の伝統」に対するリスペクトを基調に持つ作品である。付け加えるなら、原作では開業医だった原田先生が映画版では神社の神主になるなど「神道」「神社」の伝統的モチーフは映画版で原作より強まっている。と同時に、その企画の出発点からミックスルーツである野村周平を真島太一という物語の最重要人物に据え、新シリーズでも嵐莉菜を重要なキャストとして迎える。伝統と革新がつねに並行しているのだ。
それは競技かるたというスポーツそのものにおいても同じである。近江神宮という「聖地」で大会が行われ、日本的な厳しい礼儀作法とルールを持ちながら、新世代の若き名人・クイーンたちによってその革新と変革が訴えられている。映画では松岡茉優が演じたクイーン若宮詩暢は、原作ではその変革の象徴として描かれている面もある。日本の伝統から世界的な近代スポーツに飛躍する時、その変革は避けられないものなのだ。
「ちはやふる 神代もきかず竜田川 からくれなゐに水くくるとは」
作品タイトル『ちはやふる』の由来にもなったこの歌は、映画版冒頭でも広瀬すずのナレーションで「千年前、在原業平が詠んだ激しい恋の歌」として紹介される。
この歌の「からくれなゐ」とは唐紅とも韓紅とも書き、当時の海外最新流行色を意味する。在原業平が千年前に詠んだ歌の真意は竜田川を染める紅葉の色ではなく、それを表現する人間の語彙の変化、新しい価値観の変化だったのだ。『ちはやふる』シリーズが伝統と革新の矛盾するテーゼを常に持ち、今また嵐莉菜という新しいキャストを迎え入れるのは必然のように思える。
『ちはやふる-めぐり-』はネットフリックスはじめ多くの配信サービスで世界配信されている。競技かるたの世界的普及と同時進行で、日本人に愛されたこの物語にやがて世界中の観客が出会うことになるだろう。その時、嵐莉菜の中に流れる5つのルーツは、「これは東アジアだけではなく、あなたたちの物語でもあるのだ」という共感を世界に架ける橋となるだろう。
それは「千早振る神代」つまり神話の古代にも想像できなかったコンテンツ大航海時代の海を染めるからくれない、新世代のミックスルーツ俳優たちの流行色である。上の世代が壁に阻まれ飲み込んできた「私たちはここにいるじゃん」という言葉を、嵐莉菜や主演の當間あみたちの世代は高らかに、世界の視聴者に告げていくだろう。

