少年犯罪から虐待家庭、不登校、引きこもりまで、現代の子供たちが直面する様々な問題を取材してきた石井光太氏による、教育問題の最深部に迫った『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文春文庫)の一部を抜粋して紹介。いま、子供たちの〈言葉と思考力〉に何が起こっているのか。(全2回の2回目/前編から続く

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3割くらいが「なぜ不登校になったのか理由がわからない」

 文科省は、不登校の定義を、「年間30日以上の欠席」としており、2023年度の統計によれば小中学校の不登校児童生徒は合計して34万6482人となっている。ただし、病院で心の病気と診断された子供は「病欠」として不登校から除外される上、30日に限りなく近い欠席や別室登校の子供など「不登校予備軍」の数はその3倍に上るという試算もあるから、実態はこれよりかなり多いと考えるべきだろう。

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 不登校の生徒たちに取材をすると、次のような声を頻繁に聞く。

「なぜ不登校になったのか理由がわからない」

 これまで私は北は岩手県、南は沖縄県まで全国10カ所以上のフリースクールを取材した経験があるが、おおよそ3割くらいがそう答える印象だ。これはフリースクールの職員に訊いても、大体一致する意見である。

 それでも、フリースクールに来ているのは不登校の中でも比較的家庭に恵まれていたり、外に出る意志があったりする子供たちなので、長期にわたって自室にひきこもっている子供たちについてはもっとその傾向が顕著になる可能性が高い。

写真はイメージ ©graphica/イメージマート

不登校の生徒がクラスに3、4人いるのが普通

 公立中学に勤める、50代の男性教員の言葉を紹介しよう。

「私が教員になってから不登校の生徒は年々増えているように思います。特に2000年を過ぎたあたりから目立つようになってきて、ここ最近はコロナ禍の影響もあって急増している感があります。

 現在の公立中学では、別室登校など予備軍を含めれば、クラスに3、4人いるのが普通で、私が知る中でもっとも多かったクラスでは38人中10名がほとんど学校に来ていませんでした。それだけ大きな問題なのに、近年教員は生徒の不登校については深入りしないことになりつつあります。

 クラスに不登校の生徒が出ると、教員は本人や保護者と面談をし、不登校の原因を探ります。それを明らかにして、教育委員会が示している解決のレールに乗せるのです。でも、面談では原因がはっきりしないことがほとんどなので、教員としては打つ手がないし、下手にかかわって状況を悪化させるなという空気がある。それで結局はメンタル分野の専門家であるスクールカウンセラーに対応を任せることになるのです。もっともそこでも答えが出てこないことがしょっちゅうなのですが……」