不登校になった理由を答える子供も一応いるが…

 2019年、文科省は「不登校児童生徒への支援の在り方について」という通知において、子供が不登校になった時は面談によって理由を明らかにして、「児童生徒理解・支援シート」を作成するようにと促している。子供が抱えている事情に応じて医療機関、教育支援センター、フリースクールなどにつなぐという解決案を示しているのだ。

 だが、この男性教員が語るように、面談をしたところで必ずしも不登校の理由が明らかになるわけではない。「わからない」と答える子供の他にも、「勉強が嫌い」「体調が悪い」と一応の理由を答える子供もいる。しかしながら、教員が「それなら授業は受けなくてもいいから部活だけは来ようよ」とか「病院で診てもらおうか」と提案しても、「そういうわけじゃない」と返してくる。ではどうすればいいのかと尋ねると、「さあ」となる。こうなると、教員はお手上げである。

理由もわからないまま、15年自室にひきこもる女性

「世間には『学校へ行きたくなければ行かなくていい』という風潮があるので、教員にしても腫れ物に触るような感じになっています。教員がちょっと強引なことをすれば、たちまち批判の的になりますから。でも、そうなってつらいのは不登校の生徒じゃないでしょうか。

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 私の元生徒に中学1年で不登校になった女の子がいます。彼女はすでに15年以上ひきこもっているそうです。親御さんとつながりがあって時々話を聞くのですが、女の子自身もなぜ不登校になって、なぜひきこもっているのか未だにわかっていないそうです。それで拒食や過食をくり返したり、リストカットをしたりしているとか。理由もわからないまま15年以上も自室にひきこもっていれば、心を病むのも当然です。それを思うと本人はもちろん家族もいたたまれません」

写真はイメージ ©graphica/イメージマート

3、4人に1人は学校へ行きたいと思っている

 不登校の生徒は、学校へ行けない現状を必ずしも喜んで受け入れているわけではない。文科省の2020年の調査では、一定数の生徒たちが「もっと登校すればよかった」と考えていることが明らかになっている。具体的にいえば、小学校で25.2%、中学校で30.3%。つまり3、4人に1人は、できることなら学校へ行きたいと思っているのだ。

 そういう子供たちにしてみれば、理由がわからないまま家から出られない状況がつづくのは、出口の見えない洞窟に迷い込んでしまったような気持ちだろう。漆黒の闇の中でもがき苦しむうちに、摂食障害や自傷に及ぶ気持ちもわからないではない。

 では、なぜ不登校の子供たちは、学校へ行けない理由を答えられないのか。実はそこに国語力の問題が横たわっているのである。

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