2005年1月、2人の女性を殺害した24歳の男。ところが男はこの2人の女性に対して、何も恨みはなかったという。捜査が進むにつれてわかった、男の驚くべき犯行動機とは? 我が子を無惨に殺された親、学生時代ひどいイジメに遭った者などが仕返しを果たした国内外の事件を取り上げた新刊『世界で起きた戦慄の復讐劇35』(鉄人社)から一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)

写真はイメージ ©getty

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殺されたのは2人の女性

 2005年1月29日午前0時半ごろ、静岡市葵区新伝馬町1丁目の「Sクリニック」2階の健康関連商品販売店「K」で、従業員の女性、Iさん(当時60歳)とTさん(同57歳)が殺されているのが見つかった。通常なら2人は17時に仕事を終え18時ごろには帰宅するところが、この日は22時を過ぎても戻らない。心配した家族が店に電話をかけても誰も出ない。そこで、Iさんの娘夫婦が直接店を訪ね、縛られ大量の血を流し死亡している2人を発見したのだった。

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 娘夫婦はすぐに119番通報。駆けつけた静岡中央署員は遺体の状況と、店のレジや引き出しから6万6千円が盗まれていたことから強盗殺人事件と断定、捜査を開始すると、ほどなく一つの目撃情報が寄せられた。1月28日の夕方、若い男がクリニックの敷地のフェンスを乗り越えて自転車で店から立ち去ったという。警察はクリニックとKに来た人物らを徹底的に洗い出し、事件前日にクリニックを訪れた若い男が捜査線上に浮かび上がる。

 診察に当たった医師によれば、その男は「先生は正常ですか、異常ですか?」などと不審な言葉を口にしていたという。さらに、現場に残されていた自転車のタイヤ痕と、男が所有する自転車のタイヤ痕が一致したことから、警察はこの男が何らかの事情を知っているものとみて、事件発覚当日の夕方、任意で取り調べを行う。

 男の名は高橋義政(同24歳)、現役の静岡大学生だった。高橋は事件への関与を一切否定した。が、捜査員が粘り強く事情を聞いていたところ、外の空気を吸いたいと立ち上がり、それを静止する捜査員に対して椅子を持ち上げるなど抵抗したため公務執行妨害で現行犯逮捕。その後の調べで犯行を自供したため強盗殺人容疑で再逮捕する。

 動機は親しくしていた女性がクリニック院長の不適切な治療により死亡したことに対する報復で、当日は院長が不在だったため、流れで従業員2人を殺害したのだという。