大義名分のために犠牲になった多くの子どもたち
『満天の星』は、語りすぎず、描きすぎず、観る者の想像力に委ねる表現が印象的だ。取材映像に加え、アニメーションを描き上げる過程や、ナレーション、音楽など、多彩な映画表現を通して、「考えるのは観客」という、ふたりの信念を垣間見せる。
「体験者が語れる時間は、もうわずかしか残されていません。だからこそ、記録ではなく、記憶として誰かの心に託す必要がありました。語り部の方々が、『生き残ったのは後世に伝える使命があるからだ』とおっしゃっていたように、僕たちも使命感を持ってこの映画を作りました」(葦澤さん)
ロシアによるウクライナ侵攻もふたりの使命感を強める一因となった。戦争の理不尽さ、愚かさを肌で感じるために、ふたりはウクライナへもカメラを向けている。
全国公開に先駆け、7月から始まった沖縄先行上映では「対馬丸のことを映画にしてくれてありがとう」という感謝の声が多く寄せられたという。
「戦争完遂という国の大義名分のために、何の罪もない多くの子どもたちが犠牲になったのです。対馬丸事件を知ることで、戦争の悲惨さや愚かさをふりかえってほしい。そして願わくば、僕らと同世代の人たちには、この先戦争のない世界をどうやってつくっていくのか、子どもたちの未来をどう守っていくのかを一緒に考えてほしいと思います」(葦澤さん)
寿大さんもこう続ける。
「取材では、対馬丸の体験を語らなかった人たちもいました。その“語れない”恐怖も、痛みも、忘れたいと思った気持ちも、すべて戦争の一部だと思います。平和な日常は決してあたりまえのものではありません。学校でも家庭でも、この映画をきっかけに少しでも戦争のことを話す機会が増えたら。それこそが平和をつなぐ一歩になると信じています」
『満天の星』
一夜で784人の子どもたちが命を落とした、戦時下史上最大の学童死亡事件「対馬丸事件」。当時、この悲劇は箝口令により徹底的に秘匿とされ、その詳細は長らく闇に包まれていた。対馬丸事件の生存者である中島髙男は、事件当時「対馬丸」の甲板員として乗船。沈没の衝撃でバラバラになった筏を、暗闇の海上を泳いで一つ一つ探し、それらを繋げ7人を救助した。数日間の漂流の末、奇跡的に生還したが、その後も、事件に関する厳しい情報統制の中で苦しみ続けた。中島髙男を祖父に持つ俳優・寿大聡は、祖父の死をきっかけにその足跡を辿り、事件の真相に迫る旅に出る。戦争の理不尽さ、そして人々の記憶に埋もれた真実を追求する中で、寿大の旅は戦地ウクライナにまで及ぶ。その旅の果てで私たちが見るものとは。
監督:葦澤恒、寿大聡/出演:寿大聡、中島髙男、平良啓子、仲田清一郎、上原清、高良政勝、田中真弓(ナレーション)/日本/84分/配給:NAKACHIKA PICTURES /©2024映画「満天の星」製作委員会/公開中

