2人の試練は……
さて、作中の話に戻ろう。やがて始まった尋問で、エレナは、なぜ自分たちが疑われているのか、その理由を知る。それは事実婚関係にあるエレナも知らなかったディエゴの過去にまつわる秘密だった。
個人と国家の関係と並んで描かれるテーマ、それは個人と個人の摩擦だ。それを指摘すると、ロハス監督はかすかにニヤリとして答えた。
「脚本を執筆するなかで、2人で考えたんです。あの最悪な場所で起きる最悪な展開は何だろう?と。それは、カップルがお互いへの不信感を、尋問という形で植え付けられること。あれはあの2人にとっての試練なのです」
その試練を2人がどう切り抜けるのか、あるいは切り抜けられないのか。冒頭でパスポートを差し出す彼らにそうしたように、パートナーへの不信感を募らせるカップルに自分を投影する人もいるかもしれない。それほどに、人ごととは思えない、誰にでも起こり得る出来事……。わずか65万ドルという低予算で作られた極めて小規模な映画だからこそ、ごく個人的に心に迫ってくる。
©2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE 配給:松竹
ところで、今回は共同監督だった2人だが、それぞれ作品作りにおいて大切にしていることと今後の構想は?
「ジャンルやストーリーはどうあれ、作り手の“声”がしっかりあること。そしてそれを作品に込めて観客に伝えることです」(ロハスさん)
「今回の2人の目的がそうであったように、“移住”というテーマに関心があります。その裏にあるリアル、まだ語られていない当事者ならではの物語を追求したいと思っています」(バスケスさん)
最後に、今回の日本への入国について2人に聞いた。
「とてもスムーズでしたよ。でも、今僕たちはスペインのパスポートを持っていますから。もしベネズエラのものだったら、どうなっていたかはわかりません」
スーツケースの中身を調べられて不機嫌になるエレナのことを、ディエゴは物言いたげな表情で見守る。そんな2人を試すような質問を審査官たちは執拗に繰り返し……。
Alejandro Rojas/1976年生まれ、ベネズエラ出身。現在の活動拠点はスペインのバルセロナ。Netflixオリジナル作品『パラメディック-闇の救急救命士-』(20)など、世界中の映像作品の制作に携わりキャリアを積む。本作が初の長編脚本・監督作品。
Juan Sebastian Vasquez/1981年生まれ、ベネズエラ出身。スペインのカタルーニャ映画映像学校で学び、HBOラテンアメリカグループのコピープロデューサーを経て、撮影の分野に活動の場を移して活躍中。本作では監督、脚本、撮影監督を兼任。
INFORMATIONアイコン
映画『入国審査』(公開中)
2023年/スペイン/77分/原題:UPON ENTRY
配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/uponentry/




