以後2年間、ヴァージニアはエプスタイン、マクスウェルとともにニューヨークやヴァージン諸島にあるエプスタイン私有の島「エプスタイン島」に飛んで性行為を重ねさせられた。ヴァージニアはロンドンにも連れて行かれ、英国のアンドルー王子(1960年生、現在65歳)とも計3回、性行為を強要されたと証言。英国社交界でも名を知られていたマクスウェルがアンドルー王子をエプスタインに紹介したのだった。

(左から)アンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー、エプスタインの恋人ギレーヌ・マクスウェル。2021年8月9日にニューヨーク南部連邦地方裁判所が公開した写真(撮影日不明) ©AFP=時事/UNITED STATES DISTRICT COURT

 2002年、ヴァージニアは19歳になった自分にエプスタインが興味を無くしたことを知り、タイにあるマッサージ・スクールの学費を出すよう交渉した。これを機になんとか自立しようと考えたのだった。タイに飛んだヴァージニアは、そこでオーストラリア人のマーシャルアート武闘家、ロバート・ジュフリーと知り合う。ヴァージニアはロバートに全てを話し、2人はオーストラリアに飛び、結婚した。3人の子供にも恵まれ、5年間は平和に暮らせたという。

被害を公表し、加害者たちに対して訴訟を起こす

 しかし、エプスタインが初回の逮捕をされた翌年の2007年にヴァージニアはエプスタインとマクスウェルからの電話を受ける。2人はFBIの捜査がヴァージニアにも及び、自分たちに不利な証言をしていないか心配したのだった。

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 2008年、エプスタインのみが収監されるが、司法取引により刑務所からほぼ自由に出歩けるという驚くべき厚遇を受ける。これに怒りを覚えたヴァージニアは意を決して自分がエプスタインとマクスウェルの被害者であると名乗り出る。以後、加害者たちへの訴訟を起こし、メディアの取材に繰り返し応えていく。

Nigel Cawthorne『Virginia Giuffre』(2022年)

 そんなヴァージニアにとって、2019年の2度目の逮捕の直後にエプスタインが拘置所で自殺したことは大きなショックだった。ヴァージニアはNBC『Dateline』のインタビューでこう語っている。

「私はあのモンスターを悼んでいるのではありません。あの男に責任を負わせる能力を私が失ったことを嘆いているのです」

 2021年、ヴァージニアがアンドルー王子に対して訴訟を起こすと、王子本人だけでなく、英国王室も王子がヴァージニアに性行為を強要したことを否定した。勇気を振り絞って名乗りを上げた性被害者が、その主張を欧州の王室によって全世界に向けて否定された、つまり、嘘つき呼ばわりされたことは、どれほどのショックであり、恐怖であったことだろうか。

 それでもアンドルー王子は金額非公開の和解金を支払い、生前のエリザベス女王は自身の息子である王子に対し、「ヨーク公爵」の称号は維持させるものの、以後、公務には就かせないと取り決めた。