欧米の政財界の有力者を巻き込み、世界に衝撃を与えた性的スキャンダル「エプスタイン事件」。首謀者であるジェフリー・エプスタイン元被告が2019年に勾留中に死亡したことによって真相は闇に葬られたかのように思われたが、現在、トランプ米大統領を巻き込む政治的騒動に発展している。一体何が起きているのか? 在米ライターの堂本かおる氏が寄稿した。(全4回の1回目/続きを読む)

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アメリカを揺るがす「エプスタイン事件」

 今、トランプがかつてない窮地にある。自身の熱烈な支持層「MAGA」からの支持を失いつつあるのだ。

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 ドナルド・トランプの旧友、故ジェフリー・エプスタインは小児性愛者だった。エプスタインは2019年にセックス・トラフィッキング(=性的人身売買)により逮捕され、獄中で自殺している。

 今年5月、トランプ政権がFBIによるエプスタインの捜査資料「エプスタイン・ファイル」を公開しないと発表したところ、これまで何があってもトランプを信奉してきたMAGAが「ファイルを公開せよ!」と怒りを爆発させたのだ。

ドナルド・トランプ米大統領 ©EPA=時事

 エプスタインは少女たちを自分で性的虐待するだけでなく、複数の著名男性にもあてがっていたとされている。MAGAは、その多くがリベラルの富裕層であり、ファイルを公開することで ”ディープステート” を撲滅させられるとする陰謀論を、エプスタインの死後6年間に渡って拡散しており、エプスタイン・ファイルに含まれる「顧客リスト」の公開を渇望している。

 この混沌を生み出した「エプスタイン事件」とは、そもそも何なのか? エプスタイン・ファイルには何が書かれているのか? トランプはなぜファイルを公開しないのか?

 それを紐解くには事件に関わる4人の人物と、その背景を知る必要がある。

1.ジェフリー・エプスタイン(Jeffrey Epstein)

 金融家のジェフリー・エプスタインはニューヨークやフロリダに邸宅を構え、カリブ海のヴァージン諸島に私有の島、通称「エプスタイン島」を持つ大富豪だった。

獄中で自殺したとされるジェフリー・エプスタイン ©getty

 エプスタインは1953年にニューヨーク市内の労働者階級の家庭に生まれている。数学に秀でており、高校を2年飛び級してニューヨーク大学のクーラント数学理科研究所に通ったものの、学位を取得せずに中退している。

一流高校の教師→大手投資銀行CEOからスカウトされ…

 教員資格を持たないにもかかわらず、マンハッタンにある一流私立高校で数学と物理の教師となったエプスタインは「女生徒に対して不適切な行動」があったとされている。だが、そのことで咎められることはなく、「教員としての成長がない」として2年で解雇される。

 しかし、ある生徒の父親がエプスタインの“知性”にいたく感心しており、その父親がやはり同校に子供を通わせていた大手投資銀行「ベア・スターンズ」のCEO、アラン・グリーンバーグにエプスタインを紹介。グリーンバーグはエプスタインをベア・スターンズに迎え入れた。