欧米の政財界の有力者を巻き込み、世界に衝撃を与えた性的スキャンダル「エプスタイン事件」。この事件の未公開資料、通称「エプスタイン・ファイル」を巡る問題が、米トランプ政権を揺るがす騒動に発展している。
資産家のジェフリー・エプスタイン元被告(2019年に逮捕・起訴され、同年66歳で死亡)が、未成年の少女達に金銭を払い、性行為の相手をさせていたとして、児童買春で起訴されたこの事件。なぜ今、これほど問題視されているのか? 在米ライターの堂本かおる氏が寄稿した。(全4回の4回目/はじめから読む)
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■ドナルド・トランプ (Donald Trump)
「エプスタイン・ファイル」を巡る騒動は今年2月に始まったと言える。
2月21日、トランプ政権の司法長官パム・ボンディは保守派メディアのフォックスニュースに出演し、「エプスタイン・ファイルは私の机の上にある」と明言した。この発言は、エプスタインの死後6年にわたってファイル、わけてもエプスタインの「(児童買春)顧客リスト」の公開を待ち望んでいたMAGA(=熱狂的なトランプ支持者)を興奮させた。
2月27日、15人の右翼インフルエンサーや陰謀論者がホワイトハウスに招かれ、「エプスタイン・ファイル:フェーズ1」と題された白いバインダーを手渡されるという、前代未聞の事態が起きた。当日のニュースには満面の笑顔でバインダーを掲げるインフルエンサーたちの写真が躍った。ところがバインダーに目を通したインフルエンサーたちは、「すでに公開されている内容ばかりだ」と自身のSNSやポッドキャストで不満を漏らした。
MAGAの怒りを爆発させた「FBIメモ」
7月6日、MAGAの怒りが本格的に爆発した。この日に公表された、エプスタイン・ファイルについての「FBIメモ」が理由だった。
メモには「顧客リストは発見されなかった」「資料の多くは裁判所命令により封印」とあり、司法省とFBIは「これ以上の情報開示は行わない」と宣言した。さらにメモでは、エプスタインは留置所の独房内で自殺したと断定されていた。陰謀論者たちはエプスタインは何者かに殺害されたと固く信じているのだ。
エプスタインが収監されていた留置所の監視カメラ映像も公開されたが、エプスタインの独房の入り口は死角となって映っていない。加えて画像が編集された痕跡もある。司法省とFBIはどちらの点も問題ないと説明しているが、世論は納得していない。
「エプスタイン・ファイルにトランプの名前が上がっている」
7月後半になってから報じられたことだが、ボンディ司法長官は5月の時点で「エプスタイン・ファイルにトランプの名前が上がっている」とトランプに報告していた。ただし、単にエプスタインの知己としての記載か、もしくは何らかの違法行為を示すものかは不明だ。
トランプが1990年代にエプスタインのプライベートジェット機(通称「ロリータ・エクスプレス」)でフロリダ州パームビーチとニューヨーク間を少なくとも7回飛行したことは飛行記録から判明しているが、エプスタイン島への訪問は確認されていない。


