岩田:そこがないがしろになると、現場がおかしくなってくる気がして。今でもベテランの人にたいして「え、それでいいの?」と思ってしまうぐらいの気遣いのなさを見かけることもあって心配になります。……でも、明田川さん。僕は最近そういうことを言えなくなってきちゃったんですよ。
明田川:(笑みをうかべながら)どうして? 岩田さんは、ちょっとトゲがあるぐらいのシャープさがあったほうがいい気がするなあ。
岩田:(苦笑)。ちょっと前にも同じようなことがあって、僕自身まだ若い気でいましたから、良かれと思って若い後輩に言ったら、ちょっと怖がられてしまいまして……。
明田川:ああー。
「若手ばかりだと、どうしてもサークルのようなノリに…」
岩田:気がついたら僕52歳になっていまして(※取材当時)、たしかに52のおっさんが20代の子にそういうことを言ったら、言われたほうはおそらく相当なショックを受けるのだろうなと。今でいうパワハラじゃないですけど。
明田川:まあ、昔の人がやっていたことが今だとパワハラになるようなこと、いっぱいあったと思いますよ。今はそのままにというわけにはいかないですけど、そうした先輩の言葉があったから礼儀なんかを勉強できた部分もありますよね。今は現場で学ぶ姿勢の強い、熱心な若い人が本当に多くなったと思いますが、礼儀の面ではこのままで大丈夫だろうかと心配になることが多くなってきた気もしますね。
岩田:同感です。自分のいる業界の批判は心苦しいのですけれど……。でもまあ、僕らの世代のときから、同じようなことを言われてきたんですよね。「(芝居に)個性がない」みたいなことも、ずっと言われ続けていて。今はもっと如実にみんな同じようなしゃべり方をしていて、ある意味、芝居の本質を分からないままやれてしまうところがある気がしています。
明田川:大塚明夫さんは、今でもときたま「ここは、こうやったほうがいいじゃない」と現場で言ってくれてありがたいんですよね。そんなふうに言ってもらえると、若い人も嬉しいんじゃないかと思います。
岩田:収録現場での、ベテランと若手のバランスにもよりますよね。若手ばかりだと、どうしてもサークルのようなノリになってしまうといいますか、それだと演じるうえでの刺激も少ないんじゃないかと思うんですよ。例えば、『ONE PIECE』の収録現場だと、大ベテランから若手まで老若男女が勢ぞろいで、もう熾烈なんですよね。もうしびれますし、なんて幸せな現場なんだろうと思います。
明田川:そうだろうなあ。そういうところでもまれて、徹底的に芝居をやることで良い人がどんどんでてくると嬉しいですよね。
岩田:「よーし、あの先輩の鼻をあかしてやろう」と、ああいう現場にいくといまだに燃えてしまいます。そうした楽しさを知ることができる現場が、もっと増えていくといいなと思います。今の現場ですと、仕方がない部分もあるのですけれど、ある意味、芝居の本質を分からないままやれてしまうところがあって、しかもそれで声優として食べられてしまうんですよね。
明田川:僕はコラムのなかで「会話の大事さ」をよく話しています。今多くなってきているゲームやアプリの仕事は、ひとりでセリフを録ることがほとんどですよね。ゲームの仕事だけをやっていると、会話や掛け合いのことを考えなくなってしまう傾向があるのではないかと危惧しています。
