「(生きているから うれしいんだ)が二番で、(かなしい)のが一番。普通に作れば逆でしょう。当時の僕の心境を反映しているのです」
(読売新聞文化部『唱歌・童謡ものがたり』岩波現代文庫)

成功体験が「アンパンマン」につながったのではないか

本業の漫画ではなかったが、「手のひらを太陽に」で大ヒットを飛ばした。盟友のいずみたくとは、その後もコンビを組み、「アンパンマン」のミュージカルも含め作詞作曲で約300もの曲を世に出したが、最初に組んだ「手のひらを太陽に」ほど、知られている歌はない。

いずみは「やなせさんの歌で印税を一番かせいだのがこれ(「手のひらを太陽に」)ですよ」と語ったという(『唱歌・童謡ものがたり』)。それもナメクジ→アメンボの変更を不本意だったかもしれないが、承諾した効果だろうか。

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国民的大ヒットと呼ばれるコンテンツの裏には、やなせのような暗い情念や葛藤を抱えたクリエイターの創作を、大衆が共感できるようにマイルドにする仕掛け人がいるものだ。そんな「手のひらを太陽に」の成功体験が、後に「アンパンマン」でやなせをブレイクさせたのではないだろうか。

村瀬 まりも(むらせ・まりも)
ライター
1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。
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