移動の「正常化」と「犯罪化」
コロナ禍に起きた移動をめぐる問題でいえば、「人種」や国籍に関する出来事も見過ごせない。新型コロナウイルスの起源をめぐっては、当初から中国・武漢の市場で動物からヒトに感染したという自然感染説や、武漢の研究所から漏洩したという研究所漏洩説が有力とされてきた。
どれが真実なのかは結局よくわからないが、感染経路の情報によって、パンデミック当初から中国(あるいは中国人)や外見が似たアジア人のせいにするような、人種差別的言動が世界中でみられ、“武漢ウイルス”や“カンフー・インフルエンザ”といった侮蔑的な呼称も使われた。日本でも、横浜中華街の複数の店に中国人を中傷する言葉を記した差別的な手紙が送られるといった出来事があった。
何らかの危機が生じたとき、すぐに移民や難民のせいにすることは許されない。しかし、残念なことに、こうしたことは歴史的に繰り返し行われてきたことである。
古くから、国境を越える移動者は、病気をもたらす存在であり、自集団・自国の生物学的なセキュリティを脅かす存在として、最も厳しい移動制限措置の最初のターゲットとなってきた。
国家による移動の管理は、常に人種間に境界線を引く試みであり、ある集団の移動を奨励する一方で、他の集団の国境を越える移動を妨げてきた。ある人たちの移動が「正当化」され、「正常化」されるとき、一方で他の人たちの移動が「犯罪化」され、「異常化」されるのである。
