日本国内で射撃できんかったワケ
しかし、射程が長い長所は短所でもあった。あまりに射程が長すぎるため、せまい日本国内の演習場では射撃できんかったのである。これまた安全や周辺国に過剰に配慮せざるをえない民主国家の長所でもあり短所でもあった。
共産党一党独裁の中国や金一族による独裁国家北朝鮮は、日本海いや日本列島に向けて、バンバンと弾道ミサイルを発射している。
事実、2017年に北朝鮮が半島から発射した弾道ミサイルは北海道上空を通過したのち、東方沖合約1180kmの太平洋上に落下した。つい3年前には、中国が放った弾道ミサイル5発が沖縄県波照間島沖合の日本のEEZ(排他的経済水域)に落下している。途中、札幌市内に落下しようが、船舶に命中して日本人に被害がでようが、お構いなしだったのである。
それなのに我が国は「危ないから」と、そんな敵ミサイルを迎撃するどころか、我が方の地対艦ミサイルの実射訓練すらできなかったのである。
先んじて北海道では訓練できたが…
かくして、我が国もやっと国内で初の地対艦誘導弾実射訓練に挑むこととなった。
それが、今年6月、北海道の新ひだか町の陸上自衛隊静内対空射撃場で行われた、国内初の地対艦誘導弾の実射訓練である。
それでも、国内初の地対艦ミサイル発射で使用されたのは、1000kmという超長射程が自慢の12式地対艦誘導弾の能力向上型ではなく、射程が100-150kmと言われる88式地対艦誘導弾なのである。しかも弾頭も通常ではなく、炸薬を抜いた演習弾である。さらにしかもロケット燃料も減らして。もひとつしかも、標的までの半径40km圏内に漁船やプレジャー・ボートが近づかぬよう、自衛隊は何隻もの警戒監視船まで出し、安全を図っていたのである。
かくして、前述の通り、射程が長いため国内で実射できなかった12式地対艦誘導弾の海外での実射となったのである。豪州東海岸ニュー・サウス・ウェールズ州ビークロフト半島の豪海軍射撃場。「タリスマン・セイバー25作戦」の一環としての実弾射撃訓練である。このタリスマン・セイバーは米豪が主催し、2年毎に豪州で行われる多国間軍事演習で、今回は日本を含む19カ国約3万9000人の将兵が参加する、友好国間の協調を図りながらの極めて実戦的な訓練である。

