「特使役を担うのは金与正氏しかいない」
北朝鮮にとっての救いは、トランプ氏本人が金正恩氏との会談に意欲満々だという点だ。トランプ氏は、米朝合意によって「世界で戦争を止めさせた8番目の例だ」と誇り、ノーベル平和賞の受賞を目指すだろう。
北朝鮮としては、実務協議は意味がないし、逆に自殺行為になりかねない。そこで、北朝鮮は「親書」と「特使」によって、トランプ氏の意思を直接確認する手に出るだろう。その特使役を担うのは金与正氏しかいないと、北朝鮮は考えているようだ。それが、8月20日の朝鮮中央通信報道につながっている。来る党大会で、金与正氏は特使にふさわしい職責、党書記などのポストを与えられる可能性がある。
「ロイヤルファミリーの特別な一員」との声も
金与正氏の強烈なパワーの源泉は、実兄の金正恩氏との強い信頼関係だ。北朝鮮の指導者は代々、「キョッカジ(枝葉)」と呼ぶ、政敵になりそうな「白頭山血統」と言われる金日成主席の血を引く人物たちを殺害するか幽閉に近い閑職に追いやってきた。
だが、金与正氏だけは例外の扱いを受けている。朝鮮中央テレビは今年1月と4月、金与正氏とその子どもとみられる男女の幼児2人の映像も伝えた。日米韓の政府関係者は、2人が金与正氏の子どもだとみている。関係者の1人は「金与正氏はキョッカジなどではなく、ロイヤルファミリーの特別な一員ということだ」と語る。
現在、「白頭山血統」で公職に就いているのは金正恩氏と金与正氏の2人しかいない。現在の金正恩氏の後継者は、西側メディアが「キム・ジュエ」と呼ぶ娘とみられるが、ジュエ氏は2012年末から13年初めに生まれたとみられる。ジュエ氏が入党し、公職に就くまでまだ10年は必要だ。それまでに、金与正氏を支える党や政府の人間たちは増えていくだろう。金正恩氏が健在である限り、ジュエ氏の地位は揺るがないが、健康状態次第では、「金与正体制」が誕生する可能性も残されている。