チェン会長と日本の関係
インタビューの最中でチェン会長がおもむろに、「どこで中文を覚えたのか」と筆者に問うた場面があった。北京留学で、と答えるとチェン会長はこうつぶやいた。「ならばあなたは、台湾人が中国人とは違うと知っているでしょう。日本の善良な道徳観と中華の儒教思想の伝統が一体になったのが台湾人なのです」
チェン会長は古都、台南の出身である。家系図では約200年前まで辿れるが、始祖が中国のどこから来たかは分からない。それほど台湾に深く根ざした本省人だ。祖父は植民地時代に日本の小学校で校長を務めた名士で、両親は家の中では日本語で話していた。自身は日本語を話さないが、起業間もなく日本の商社が設備と資金を全面支援してくれたことを懐かしげに語った。そして芝浦電子についてこう言った。
「芝浦電子の株価はずっと、3000円前後で推移していました。それを大きく上回る価格を私たちが付けたのは、芝浦電子の潜在的な可能性を見抜いていたから。ヤゲオ以外は誰もこの会社の価値を正しく評価していなかったのです。だから敬意を持って、他国の首相に謁見を求めるように低姿勢で、提案を聞いてほしいと懇願してきたのです」
思い入れの深い日本で見出した優良企業。丁重に買収に挑んだが、再三提案を無視され、機会を平等に与えられず、「招待状を持っていない」と扉を閉ざされている。なぜ芝浦電子は頑なにヤゲオを拒むのか。書面で質問したが、「回答を差し控える」(広報事務局)とのことだった。
※本記事の全文(約11000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(杉本りうこ「日台ガチンコ対決 買収王vs買収王」)。この記事では下記の内容をお読みいただけます。
