中国のEV(電気自動車)業界でトップを走る企業は、どんな技術力を持っているのか。ベテランジャーナリスト・井上久男氏が、現地を徹底取材した。

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新興EVメーカーの「御三家」

 蔚来汽車、理想汽車と並んで中国の新興EVメーカー「御三家」と呼ばれている小鵬汽車を訪ねた。小鵬は「シャオペン」と読む。2014年創業で、早くも2020年にはニューヨーク証券市場への上場を果たした。CEO(最高経営責任者)の何小鵬氏は、自身で起業したIT企業をアリババに売却した後、小鵬汽車を創業した。

小鵬汽車の本社ビル(筆者撮影)

 筆者は2019年に同社を訪問しているが、本社ビルは当時と変わりないものの、事業内容は大きく変化していた。当時は自社工場を持たずに他の自動車メーカーに生産を委託していたが、現在は武漢で自社工場を稼働させている。2023年には独フォルクスワーゲンから7億ドル(約1036億円)の出資を受け、戦略的な提携契約を結んで共同購買などを進める。さらに、主要部品を中国から輸出して現地で組み立てるノックダウン式の工場をインドネシアに建設した。米シリコンバレーなどにも開発拠点を持っている。

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 5階建ての本社に入ると、3階から1階にかけて大きな滑り台が設置されている。米国や中国のネット系企業には、遊び心からこうした滑り台をかけているケースを時折見かける。小鵬では実際、急いでいる社員が滑り降りてくることもあるという。案内してくれた胡逸寧副総裁は次のように語る。

小鵬汽車の本社に設置された滑り台(筆者撮影)

「滑り台で降りている間にインスピレーションのようなものが生まれればいいし、販売会社とのイベントの際にも活用している非常に重要なツールです」

 このビルには元々、ショッピングモールが入っていたが、現在は小鵬が借り上げて本社として使用している。今年後半には近くに新本社ビルが完成する。「新本社の設計やデザインは、シリコンバレーの先進企業をイメージしたものになっている」と胡氏は胸を張る。