29歳の時にはNHK大河ドラマ『天地人』(09年)で大河ドラマ初出演にして初主演を果たすが、最大の転機と言えるのは映画『悪人』(10年)だろう。

「悪人」

『ジョゼ~』で演じた「情けない等身大の青年像」を超えて、この『悪人』での妻夫木は文字どおりの「悪人」。

 殺人を犯したことを隠して出会い系サイトで深津絵里演じる平凡なOLと出会い、逃避行を続けながらやがてふたりは愛欲をむさぼり合うように。

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 逃避行に疲れ警察に出頭する前日、妻夫木は深津を押し倒す。深津が腰を浮かすとミニスカートから太ももがあらわになり、妻夫木は待ちきれないとばかりに彼女の下着を引きずり下ろし、自らも下着を脱ぎ、深津の白いヒップに腰を押し当てて激しく揺すり始める。

 腰の動きの荒々しさに比例するように深津の仰ぎ声が激しくなり、それに呼応して妻夫木の声も動きもさらにエスカレート。「本番」疑惑がかかるほどの迫真さにあふれていた。

妻夫木聡〔2010年撮影〕 ©文藝春秋

「シャワーを浴びながら、だんだん帰って来ないんじゃないかって気がしてきて」

 妻夫木のラブシーンのすごいところは、相手が男性でも本気度が全く変わらないところだ。

 映画『怒り』(16年)では、初共演の綾野剛とゲイカップル役に。妻夫木演じるサラリーマンが、いわゆるハッテン場のサウナで綾野と出会い、すぐに肉体関係となる。妻夫木のアパートに綾野が転がり込む形で同棲生活が始まるが、ふたりは役づくりのために2週間、実際にホテルで同棲生活を送ったという。

 映画ではある日、綾野が黙って妻夫木の前から姿を消すが、この2週間の同棲生活の最後も綾野が何も言わずに姿を消すことで終わったという。

 その“失踪”について妻夫木は「シャワーを浴びながら、だんだん帰って来ないんじゃないかって気がしてきて、『あぁ、やっぱり』と思った」(「CinemaCafe.net」でのインタビューより)と続話している。その生々しい証言から、少なくとも映画の撮影中は2人が実際に愛し合っていた事実がうかがえよう。